わたし好みの新刊   20172

『ベアリングのひみつ』(まんがでよくわかるシリーズ)田中久志/漫画 学研プラス

 今回はまんが本を取り上げた。まんがは「科学読み物か」と問われそうだが,ストー

リー性があって知られざる世界に楽しく導いてくれるので科学読み物の一つと見ていい

だろう。吹き出しの一つ一つは対話文と思えばいい。かつては,井尻正二/作,伊東章

/絵のわくわくする恐竜まんが(新日本出版社)があった。今も,各社から科学漫画

は出版されている。

 さて,この本で取り上げいるベアリングは,近代産業を支えている重要な部品で

ありながらあまり目につかない部品である。この本はその秘密の部品に視点を当てた

読み物である。子どもたちの中にいた一人の友達が宇宙人に変身,「ベアリングの精」

が出てきて不思議なめがねを貸してくれる。それをかけると…車の中ではたくさんの

玉が動いている。ベアリングだった。家の中にある掃除機や洗濯機,エアコン,ドラ

イヤーやパソコンのプリンター,電動ブラシも不思議な玉が動き回っている。

ここでベアリングが使われている「軸受」の話に入る。「すべり」と「ころがり」の

違いについての解説がある。ベアリングが発明される前は,昔からコロとして使わ

れていた「ころ引き」があった。コロを取り入れたベアリングの構造については500

年も前にダビンチが記していた。ベアリングとは,軸の回転をよくするために考えら

れたボール入りの軸受けのことだ。産業革命が起きたころより,回転する機械にはど

んどんベアリングが使われるようになった。

ではそのベアリングはどのようにして作られているのだろうか。第3章はベアリング

工場見学である。ベアリング工場はまるで精密機械工場だ。第4章はベアリングに

入っている鋼球作りの話に進んでいる。超精密な鋼球作りが世界に活躍する日本の

ベアリング作りの元になっている。目に見えないところでさまざまな技術が駆使さ

れていることがわかる。                 2016,06刊 1,500

 

『えんとつと北極の白熊』  藤原幸一/写真と文  少年写真新聞社

 「えんとつと……」という本の題名に何か違和感を持って本をながめていると…

「なるほど北極にそういうことが起きているのか」とことの重大さにはっとさせられる。

地球最北にある美しい氷の世界には,人間の住む大陸からはるか離れてホッキョクグマ

(シロクマ)やアザラシが悠々と生活している楽園が広がるかに見える。その極地に写

真家の著者は何度も訪れてたくさんの写真で世界に発信している。その主張は「北極の

シロクマが泣いている」である。そういえばカバー表紙に写っているシロクマの目は,

何かを人間に訴えている目にみえる。美しい北極に起こりつつある恐ろしい現実をこの

本は南の人間につきつけている。

 ページを開くと,長い北極の冬があけて大洋が顔を出す幻想的な写真やシロクマ親子

が氷上を歩く静かな北極の光景が目に飛び込んでくる。すると一転,次のページには異

様な煙突と現れる。「おなじころ、北極から3000キロメートル南にあるえんとつから、

大きな黒いけむりがもくもくとはきだされ、熱とともに北に流れていきました。」と文に

ある。南の国からの煤煙が7日もたつと北極の空にたどりつくという。えさになるアザ

ラシを求めてさまようシロクマの前でも回るがアザラシは氷の割れ目からすぐに姿を消

してしまう。トナカイを見つけてもおいかけることは無理,仕方なく海藻などでシロク

マは飢えをしのぐしかない。やがて「どく」のいっぱい入った雪や雨が降り注いでくる。

その「どく」は,小さな生き物の体内に,そして,それをたべるアザラシの体にどんど

んたまっていく。薄くなった氷上を餌を求めて徘徊する白熊の親子…,ついに餌にあり

つくことなくこの本は終わっている。「シロクマの体内にあるPCBは東京湾にいる生き

物よりも20倍以上も高い」と解説にある。美しい氷原にしのびよっている深刻な環境

汚染の現実に胸が痛む本である。           20167月 1,400

 

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