わたし好みの新刊   20173

『せぼねのある動物たち』(いたずらはかせのかがくの本)  板倉聖宣/著 山田博之/絵 仮説社

「いたずらはかせかがくの本」リーズ6冊目が仮説社版として再版された。旧版は1971年国土社
から出版されていた。書かれている文章は旧版のままだが挿絵がずいぶんとカラフルになった。
このシリーズはなんといっても「科学の本」である。この本は種々雑多に見える動物界を科学の目で
分類していく。まずは,「生物と無生物」に分類する。「生きているもののことを「生物」といい,生きて
いないもの,いのちのないもののことを「無生物」といいます」と,まず「科学の言葉」を提示する。そし
て多くの絵の中から「生きているのはどれでしょう」と問いかけて話が進んでいく。「太陽」や「ロボット」
などは意外と子どもは迷う。次は「動物と植物」に分ける。「自分で動いてえさをとるのが動物です」と
定義されている。イソギンチャクはどちらだろうか。ここまで「生き物」の概念を確認していく作業が続く。
次は「せぼねのある動物-せきつい動物」と「せぼねのない動物-無せきつい動物」の分類に入る。
この話が書かれているページの挿絵は旧版より良い。しっかりと動物の背骨が描かれている。この本
ではせ骨を意識することが最も大切な要素である。今までの分類をまとめているページも旧版よりも
すっきりして分かりよい。ここでは「昆虫というのは科学のことばです。6本足の動物のことだけを昆虫
というのです」など定義をしっかりと表記している。次は「せきつい動物」をさらに分類していく。たまご
を生む動物とたまごを生まない動物(哺乳類)が定義されていく。最後に「まとめ」として魚類から進化し
てきた動物界の系列が分かりよい挿絵で紹介されている。

 動植物に関する絵本や科学読み物は多数出版されているが,この本のように科学の本として系統立
てられた本は皆無に近い。科学的な分類の楽しさが伝わってくる本である。

                                   
2016
11月刊


『リュウノヒゲ』
(かがくのとも)      山根悦子/さく 多田多恵子/監修 福音館書店

 福音館書店の「かがくのとも」は、低学年子ども向けの本であるが、ときどき人があまり意識しないこと
がらに焦点を当てて新たな発見をうながしていることがある。大人でも「そうだったのか」としばしば再認
識させられる。今回のリュウノヒゲもそうだ。リュウノヒゲは日陰の土手などで自生していたり庭先の片隅
に植えられていることが多い地味な植物である。時々小さな青い〈実〉をつけていることがあり、この〈実〉
は時々人の目に触れる。

 この本では最初に冬の雑木林が描かれている。太い樹木の根の周りに青いジュータンのようなリュウノ
ヒゲ、次のページではアップされた緑の葉が飛び込んでくる。一面の緑の茂みの中にちらりと青いものが
目に入る。この青い〈実〉が今回の主役である。場所によってはサファイアのように光った青い〈実〉が固ま
って見える。女の子の手のひらでいくつもの青い〈実〉が美しく輝いている。

「じつは これは みではなく、あおい かわに つつまれた リュウノヒゲの たねなのです。」

と説明の文が添えられている。今まで〈実〉と思っていたのは〈種〉なのだという。リュウノヒゲやヤブランな
どの一部のユリ科の植物の実は、花が咲いた後子房の壁がすぐに破れてしまうらしい。きれいな〈種〉を丸
出しにして鳥たちの目に触れる戦術なのか。

この青い粒が種子である証拠に、粒の中には種子がない。春に咲く花が枯れると、もう種子が丸出しに
なり緑から美しい青に変身していく。後半、鳥によって新天地に運ばれた青い種子が、その地に根を広げ
たくましく成長していく様子も描かれている。地味な植物を通して、密かに生育している植物の強さが感じ
られる。                                  2017,02

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