私好みの新刊  20175

『チョウの好きな葉っぱの味』(たくさんのふしぎ)

 奥山多恵子/文・絵  福音館書店

 チョウはそれぞれの食草に産卵することはよく知られている。しかし,考え

てみるとあの小さな体のチョウがどのような能力を発揮して数ある植物から自

分の食草を見つけるのか。また,なんのためにわざわざ食草を限定するのか,

食草を限定することにどういうメリットがあるのか,このようなチョウの不思

議な問題にもこの本はせまっている。

 まずは,いく種ものチョウが飛び交う春の果樹園,メスのチョウたちが乱舞

する。アゲハにジャコウアゲハ,コミスジ,モンシロチョウにモンキチョウ,

ウスバシロチョウ,ベニシジミなどが花の蜜をすっている。樹液に集まるチョ

ウもいる。やがて交尾を終えたメスのチョウたちが食草を見つける旅に出る。

「メスのチョウたちはどのようにして自分の食草をみつけるのでしょうか」と

問いかけてくる。チョウが食草を見つけるのは植物の形?色?味?臭い?触覚?

…どれだろうか。次ページには「食草の発する特有ににおいに引き寄せられ」

とあり,アゲハがサンショウの葉に産卵している絵が出てくる。確かにサンシ

ョウの木のにおいは強烈である。なんとアゲハの前足の先には味を感じる器官

(感覚毛)があるという。チョウの足先は味覚器官でもあるらしい。次にジャ

コウアゲハが出てくる。これはまたあまり見かけないウマノスズクサのみを食

草としている。これでは食草を探すのにも一苦労だ。そういえばアゲハはサン

ショウなどみかん科の植物,キアゲハはセリ科の植物,ヤマシシジミはカタバ

ミに産卵する。いずれも特有のおいがする。アオスジアゲハはクスノキの葉が

食草でこちらも樟脳のにおいがきつい。ジャコウアゲハの食草はウマノスズク

サという毒草である。チョウたちの幼虫はこうしたいやなにおいのする植物や

毒のある植物を体内に取り入れて鳥からの攻撃をかわしているという。このよ

うなチョウの生き残り戦略を淡い挿絵で紹介してくれている本である。  

    20173  700

『かつおぶしができるまで』 (すがたをかえるたべものしゃしんえほん)

宮崎祥子/構成・文 白松清之/写真 岩崎書店

 今はほとんど見かけなくなったが,鰹の出汁にかつては鰹節を使っていた。

固いまるで棒のような鰹節を箱付きのカンナで削っていたのを思い出す。今商

品として出回っている「花かつお」は鰹節の削ったものではないという。あの

なつかしい味のする鰹節は今もどこかで造られているのだろうか。そんな思い

でいるときに本書に出会った。鰹節は健在であった。今も鹿児島の枕崎や高知

の土佐清水,静岡の焼津などで生産されているという。本書は静岡県の西伊豆

町で昔ながらの技術を受け継いで造っている鰹節製造所の迫力のある写真集で

ある。ルポライターが訪れて読みやすい文を添えている。

 太平洋に面したこの作業所に冷凍されたままのかつおが運ばれてくる。その

かつおを水につけてとかすことが作業は始まる。部屋には特殊な刃物が並ぶ。

これらの刃物を使って頭を切り落とし身をおろす。何人もの手で身はどんどん

解体されていく。たくさんに刻まれた身はきれいに並べられてかごに詰められる。

そのかごを何段も重ねて高温の湯につけて蒸していく。においがぷんぷんしそ

うな写真が並ぶ。かごを引き上げたところで,器用な人の手で骨を一本一本抜

いていく,うろこや皮を取り除いていく。そして,大きな炉の上でいぶしていく。

薪には地元の山の木を使う。もうもうとした煙が目にしみ込みこんでくるようだ。

ここでまた人の手をかけて形をととのえる。さらに一ヶ月をかけてゆっくりとい

ぶしていく。かつおの身はカチカチに固くなる。やっとできた鰹節といいたい

ところだがここからが本番。シュシュシュとカビをふきかけていく。かつおの身

をカビだらけにして20日ほど樽に並べ,最後に天日干しをする。3,4ヶ月はか

けるという。

「おひさまと カビの 力を かりて、かつおぶしは もっと かたく、

もっと おいしくなっていく」

と結んでいる。最後に各ページのくわしい解説もつけられている。

 その昔,カビに悩まされたことを逆に利用して作り上げてきた伝統の鰹節製法,

カビによる発酵が独特のうまみを発揮させ芯まで乾燥させて水分のない保存食を

作り上げてきた。人類の誇りが大きく感じられる本である。 

                     201611 月  2,200

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