私好みの新刊    20177

『動物がすき!−イリオモテヤマネコをとおしてみえたこと− 

安間繁樹/文 岡本素子/絵 福音館書店

 安間繁樹という名前を見て思わず手に取った。安間繁樹さんは約30年前に『アニ

マル・ウォッチング』(晶文社)を出されている。当時地域の哺乳動物調査をしてい

た時にずいぶんと参考にさせていただいた。ところがその後ずっと安間さんのお名前

は拝見できないでいた。この『動物がすき!』はその安間さんの久々の本である。著

者解説を読むと,長くボルネオや西表島に移住されて動物調査をされていたようだ。 

 さて,この『動物がすき!』は,安間さんの動物好き人生がにじみ出ているような

本である。前半しばらくは安間さんが小学生の頃から野生動物とかかわってきた経過

が綴られている。野生動物が好きで,お父さんが持って帰ったムササビを飼ったこと

がきっかけに野生動物への思いは募る一方だった。ついに,20歳で西表島へ,西表島

の野生動物に魅せられる。そして,ついに西表島に移り住み,イリオモテヤマネコの

調査,研究の日々を過ごすことになる。警戒心の強いイリオモテヤマネコの行動を目

で見るのは至難の業である。夜間になって,高所に作った観察小屋からの忍耐の待ち

伏せて記録をとり続ける。多くの記録を積み重ねることによって「イリオモテヤマネ

コは,アジア大陸にいるベンガルヤマネコに近い特徴がある」ことを突きとめる。西

表ヤマネコとアジア大陸にいるヤマネコが近縁種であるということは,氷河期にアジ

ア大陸と日本列島が陸続きであったことを物語る。日本には,北方系の動物の子孫と

南方系の動物子孫が共存しているとのこと。しかし,滅びてしまった動物もたくさん

いる。日本古来の動物には絶滅してしまった動物も多い。逆に,海外から入ってきた

外来種の動物もいる。今も動物と人間とが共存できる方法をめざしてなお研究活動を

続けられている。この本には写真はない。すべて岡本さんによる挿絵である。

繊細な絵が動物の特徴をよく出している。      20171 1200

 

『うみがめぐり』  かわさきしゅんいち/絵・文   仮説社 

 表紙を見ると網に絡まった大きなウミガメの絵が飛び込んでくる。この本はてっきり

ウミガメの話かと思って本を開くと,たんなるウミガメの話ではなさそうだ。カバー裏に

「いのちは 歩きつづける。細胞から細胞へ いきものから いきものへ 三十億年前

から未来に向かって その足音は 世界をつむぎ ぼくたちを 通過していく……」と

書かれている。この本は一匹のウミガメから見た海に生きる生き物たちの命の本である。

どうも「うみが」「めぐり」が主題のようだ。「海って いきているんだ」と静かなメッ

セージが聞こえてくる。

 話は一匹のウミガメ誕生からスタートする。暗闇の中で誕生したウミガメは,必死に

海に向かって歩き出す。やっとの思いで水中にたどりつくと,とつぜんアライグマが飛

び込んでくる。やっと命拾いしたと思うとダイサギの目がにらんでいる。思わず浮いた

空き瓶の下に隠れる。やっと静かな海の底に出た小さなウミガメは,ゆうゆうと泳いで

いるアジの後ろにくっついて泳ぐ。巨大なクエにも出会う。イワシの大群とも出会って

くっついて泳いでいくと,とつぜんカツオドリの大きな口が目の前に。危うく命拾いし

てもつかの間,マグロの大軍団においかけられる。この場もなんとかしのいでいると今

度はクジラの大きな口が待ち受けている。クジラは多くの獲物を口に閉じ込めて大満足。

「たべられた いのちは どうなるんだろう?」と思っていると,海底に沈んだクジラ

の死体に直面する。クジラは,いのちのバトンをリレーしているのだ。「たべるというこ

とは いのちをうばうということではなく いのちを すこしのあいだ かりること」

と記されている。海はまさに命のリレー場なんだとわかる。次に,人間の造った網につ

かまっている大きなカメに出会う。ここで命のリレーはとぎれてしまうのだろうか。

「いきたり しんだりしながら 海には いのちがあふれている」と結んでいる。

各ページの挿絵はブルーが主,迫力あるタッチでこの本の主題にせまっている。なんとも

異色の絵本である。子どもたちはこの本を手に何を考えるだろうか。  

                    20174月 1800

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