私好みの新刊   20178


『生きている火山』 

 宮武健仁/写真・文  井口正人/監修 くもん出版

 比較的安価な価格で火山の魅力が楽しめる写真集である。この本には

「はじめに」も「あとがき」もない。迫力ある写真を並べて写真で読者を

引きつる手法か。この本にある写真のいくつかはすでに他の本でも紹介さ

れているが,この本では火山が引き起こすさまざまな姿をうまくまとめて

いる。

 著者力作の桜島噴火の写真を前半に集めている。なんといっても夜の桜

島噴火の写真は迫力がある。著者は桜島の南側の大隅半島に回り,噴煙を

上げている「昭和火口」の真正面から夜の噴火を待った。やがて大音響と

共に噴火が起きた。爆発的な真っ赤な噴火の光景は地球の〈息吹き〉を堪

能させてくれる。裾野に流れる糸状の溶岩流は飛びはねる火の粉の躍動感

に充ち満ちている。しばし見とれる。まさに〈生きている火山〉の光景で

ある。真っ赤な噴火の写真が何枚か続くその中に異様な写真が一枚目に付く。

「火山雷」の写真である。「石や火山灰がこすれあうと静電気がたくわえ

られ、火山雷が起きることがあります」と簡単な解説がある。他の本では

「青い竜のようだった」書いている。火山雷の一瞬を写真に収めるのは至

難の業で見事に捉えた一枚である。火山噴火でしばしば災害を引き起こす

もう一つの恐ろしい現象は火砕流である。桜島火砕流の生々しい写真も掲

載されている。

ページ後半は,一転して噴火後の静かな火山の姿を紹介している。一つ

は八丈島溶岩,こちらは柔らかい溶岩流のあとで縄状の姿をとどめている。

もうひとつは粘りのある桜島溶岩の冷えた姿。それぞれマグマの質による

溶岩の違いがよくわかる。あと,火山特有の美しい山体やカルデラ湖,噴

火に至らなかった玄武岩の姿や火山灰層,風穴や間欠泉,わき水など,火

山地帯特有の地形が紹介されている。

動と静,それぞれの火山地形が楽しめる。欲を言えば温泉情景などがあ

ればほっとするのだが。          2017年1月 1,400円
            

『ながいながい骨の旅』  松田素子/文  川上和生/絵 講談社 

 長い長い生命の歴史を「骨の旅」としたところに我が身の歴史と重ねら

れる。文を書いているのは何冊も骨の本を書いてきた松田素子さん,古生

物学的な見地からはそれぞれの専門家がフォローしている。初めのページに

「私たちの体の中には、骨があります。あなたはそれを、あたりまえだと

思っていませんか?」と問いかけている。思えば骨の歴史は,そのまま生

命の歴史でもあり,多様な生物が地球上に繁栄してきた歴史でもある。本

の後にくわしい解説がつけられている。大人であればこの解説に目を通し

てから絵を見ていくとより理解が深まる。

 最初に火の玉のマグマにおおわれた46億年前の地球の姿が描かれている。

「命」の痕跡はない。40億年ほど前になると地球に海ができ早々と単細胞

生物が生まれている。その後,シアノバクテリア出現で酸素ができ生き物

に大変革が起こる。また,「全球凍結」という信じられない事態にも地球は

直面する。そのような環境の激変が逆に多彩な生き物誕生のきっかけとなり,

5億年前頃から生き物の種類は爆発的に増える。カンブリア紀の到来である。

6000年前になって初めての「骨」を持った魚が登場する。脊椎動物のは

しりである。やがて,海から地上に進出する生き物が現われ,わたしたち

「ヒト」の誕生につながってくる。骨の役割についても大切な視点を描く。

骨は「体を支える骨」としての役割の他に,「血をつくる工場」の役割も担

っている。骨で生まれた血は海水の成分に近く,動物は体の中に「海」を入

れて持ち運んでいると書かかれている。そういえば人間も母親の胎内の「海」

で育てられてこの世に出てくる。終わりの解説で,脊椎動物の骨はカルシウ

ムの出し入れができる「リン酸カルシウム」だからこそ成長に役立っている

と説く。貝殻のように「炭酸カルシウム」では大きな成長は望めなかった。

生命誕生の元は宇宙だという考えもある。今も研究が続いている領域の話

である。今後の研究成果によってはこの本のシナリオも変わるかも知れな

い。                  20172月 1800

 

           「新刊案内8月」