私好みの新刊    201710

『よえうこそ!花のレストラン』  多田多恵子/写真・文  少年写真新聞社

 いくつもの子どもの本の監修や植物図鑑などを出している多田多恵子さんの本が一つ
誕生した。この本では花にやってくる昆虫や鳥,動物と植物のコラボレーションを楽し
く紹介している。虫たちが好むそれぞれの花を〈レストラン〉と表現するところに多田
さんの茶目っ気がある。

 黄色いファミリーレストラン,ヘリポートつきファミリーレストラン,ブラシのファ
ミリーレストラン,あまいかおりのするファミリーレストラン,からくりドアのファミ
リーレストラン,鳥専用のファミリーレストランなどなど,人のレストラン以上に虫の
レストランは多様だ。なかにはワナのあるファミリーレストラン,ウラ通りのファミリ
ーレストラン,こわーいファミリーレストランなどもあり虫たちもうっかりできないレ
ストランもある。しかし,したたかな虫もいる。花粉を運ばないで蜜を吸ってそのまま
飛び去っていく蜜ドロボーや〈スゴ技〉を使って花粉を効率よく集める虫もいる。羽音
を立ててその震動で花の密を吸う昆虫だ。南の島の海辺レストランではヤドカリも花の
蜜をすって花粉を運ぶ。また,早春に咲く福寿草はパラボラアンテナのように太陽の熱
を集めて暖かかレストランを経営する。残雪の中で顔を出すザゼンソウは発熱植物とか。

どのページもレストランにやってくる虫たちの写真が豊富に載せられている。カラフル
な小さな虫たちの巧みな仕業を見ているだけでも楽しめる。300を超える〈レストラン〉
の写真もすばらしい。

最後に多田さんは「花の多様な形や仕組みは、花と虫や鳥などの生き物たちがたがい
に深くかかわり合いながら進化してきた〈共進化〉の結果です」と結んでいる。
 
                       
20174月 1,500

 

『田んぼに畑に笑顔がいっぱい』   浜田尚子/著   佼成出版社 

この本は,福島県喜多方市の小学校で教科として「農業科」を取り入れ農業学習をして
いる体験ルポである。喜多方市では,国の教育特区として認可された「教科」として全小
学校が農業学習をしている。そこに至るまでの経過や子どもたちの姿を,浜田さんはわか
りやすくルポしている。

もちろんこういう特別な教科は教員だけでは指導できない。広い実習用の農地もいるし,
農作物の専門的な知識もいる。そこは,この地域の農家が「農業科支援員」としてバック
アップする体制が整えられている。当初は市内17校の内3校からスタートした。しかし,
だんだんと子どもたちの変化が知られるようになり,やがて9校に広がり,なんと5年後に
は市内全小学校に教科としての「農業科」が設置されるようになった。英語など多様な教
科が入り交じっている教育現場,ただでさえ忙しい中てこういう取り組みが行われること
自体珍しい。農業の持つ教育的な意義をよほど理解していないと市内前校実施などとても
無理なことである。喜多方市には中村桂子さんの「生命誌」観が根付いていた。

4章以下は,各小学校の子どもたちの活動のようすが次々と紹介されている。夏休み明
けの授業は「草取り」。雑草との戦いだ。根深い草もチームワークで抜ききった満足感が
子どもたちにただよっている。作物を育てることを体験した子どもたちには命をいつくしむ
心も大きく育つ。そのやさしさが町の人々にも広がっていく。「お米から命をもらう」と
作文に書いた子どももいる。収穫祭では思い出がつまったイモ煮をみんなで食べる。自然
と笑顔があふれる。

「自然と向き合い作物を育てながら、太陽や水や土の大切さを知り、命を尊ぶ心を
 育てていました」
とルポライターはしめくくる。
      
                               20174月 1,500
               
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