わたし好みの新刊   20181

『マンボウのひみつ』  

 澤井悦郎著 岩波ジュニア新書 岩波書店 

 この本には,マンボウについてのくわしい解説と悪戦苦闘するマンボウ研究記

が綴られている。

この本の初めには「T 体のつくりを徹底解剖」と「U 化石もあるマンボウ

の仲間」がある。ここではマンボウの特徴ある体のつくりとマンボウの系統的

な位置づけが解説されている。個別的な解説が並ぶので,もしこのあたりを読

むのが退屈するようならとばして次に進むといい。

 「V マンボウの謎」からいよいよ著者のマンボウ研究歴の話が始まる。著者

がマンボウ研究にのめり込んだきっかけは子どものころ使った任天堂のゲーム

「星のカービィ,カイン(マンボウキャラ)」からとか。その後大学でマンボウ

研究者に。運良く宮城県の漁船に乗り巨体マンボウに遭遇して研究の熱が上がる。

海外の研究者などのマンボウ分類の謎を解きながら,マンボウは2種に大きく分

けられることを突きとめる。著者は「マンボウ」以外に別種として「ウシマンボ

ウ」と名付けた。そのことが魚類学雑誌などに載せられてウシマンボウの認知度

は日本国中に広まった。その後,巨大なウシマンボウが日本海でも捕獲される謎

を水温から予測して,ウシマンボウは日本海側にも出現する可能性を検証してい

く。このような研究の醍醐味が生き生きと描かれている。ところどころに挿入さ

れている「水温の 違いで迫る 新仮説」などの著者の句もおもしろい。続いて

「W バイオロギングが暴く生態の謎」で新たな研究手法,「X みんなが気に

なる生態の最新情報」でマンボウのくわしい生態,「Y マンボウと人がつむい

できた歴史」で学名の語源などを語る。最後の「Z マンボウの民族今昔」では

昔ながらのマンボウの伝説など興味ある話がちりばめられている。「この本がマ

ンボウという生物を総合的に扱った日本では初めての一般向けの本になると思い

ます」と「はじめに」で著者は記している。文章は読みやすくて中高生以上向き。

                    20178月 1,000

『いろいろはっぱ』  小寺卓矢 写真・文  アリス館

 森に入るとたくさんの木の葉に囲まれる。森の木の葉もよく見るとみんないろ

いろ違った形をしている。丸いのもあればぎざぎざの葉もある。細長い葉もあれ

ば切れ込みのある葉もある。光合成などの役割を考えれば木の葉は大切な植物の

分身である。しかし,紅葉などの時期は別にして,ふだん木の葉はあまり注目さ

れない。多くは緑一色なので子どもたちの関心を誘うことも少ない。子ども向け

の植物の本といえば花を中心に編集されている本が多いのもうなずける。木の葉

の形をデザイン的に編集した本はあるが,木の葉の形そのものに注目を集めた本

は少ない。

この本は,そうした地味な葉っぱの形に焦点を当てた美しい絵本(写真本)であ

る。大型の写真本で低学年児にも読み聞かせができる。「みてみて、ぼくたち!

はっぱの かおは みんな ちがうよ まる さんかく しかく さかさにし

たら…あっ! ハート」と表紙の裏で語りかける。最初のページにその葉っぱた

ちが並ぶ。次ページでは,細長い葉っぱから丸い葉っぱ,その次はうんと大きい

葉っぱに小さい葉っぱ,針のような葉っぱもある。次ページは葉っぱのかお。

まるがおもあればぎざぎざがおもある。次は,葉っぱのはだざわり。つるつる

もあればしわしわもある。ピンクもあればまっ白もある。次はたくさんのギザ

ギザ葉っぱが大集合,複葉の葉っぱなどたくさんのギザギザ葉っぱが登場する。

次は夏の森の中,まるまる,つるつる ちびちび ぎざぎざなどの葉っぱが,

一面の葉っぱの森からここにいるよと叫んでいるようだ。さらに葉っぱの形は

続く。虫にかじられた穴だらけの葉っぱもある。やがて,全ページに紅葉の葉

っぱが敷きつめられるページに変わる。「さいごは みんなだいちと ひとつに

なって つぎのいろいろが うまれてくるのを たのしみにまっている」と語

り,新しい命(新芽)が芽生えている場面でこの本は閉じている。幼児から低

学年児の読み聞かせにちょうどよい植物学入門の書である。          

                          20176   1,400

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