私好みの新刊   2018年3

『地球を旅する 水のはなし』

 大西健夫・龍澤彩/文 曽我市太郎/絵 福音館書店

 -題名のような本は,海の水が太陽熱のエネルギーを受けて蒸発し,冷えてまた地上

に降り注いでくるという地球の水循環の話が多い。しかしこの本は,その水循環の中

にいろんな情報が盛り込まれていることに気づく。それもそのはず,この本は〈(すい)文学(もんがく)

という水溶性物質の研究家と日本文化研究家の共著絵本である。

 初めに雨の場面が登場する。そして「この水は、どこへいくんだろう?」と問いか

ける。次は川,海の場面。そして「海の水はたえず動き、遠くまで流れていく」とし

て「下の方の水が上にあがっていくと、上のほうにあった水が下へしずんでいく」と

海水の上下の動きも強調する。次は地上の場面。「すいじょうきも、いっしょに空に

のぼっていく」と綴り,地上での空気の流れを強調する。「水は旅する。空高く、海

のかなたまで」と。水は雨となって地上へ,そしてまた地面の下へもぐる。「アフリカ

には、1万年前にふった雨がとじこめられている場所もある。まるで、タイムカプセ

ルみたいに」と綴る。そして地上の子どもと花の絵に変わって「水は旅している。草

や木の中を、動物の中を」と書く。次の場面では魚をくわえて飛んでいく鳥の絵が広

がり「水は旅している。森と海をつなぎ、生き物のいのちをつなぎながら」とある。

春が近付くと雪が溶けて水はまた旅をする。地球上の水は増えもしないし、減りもし

ない。水の循環は「はるかむかしから、とぎれることなく、ずっと」と書いて長い長

い地球の歴史に視点が変わる。「きょう、ぼくが飲んだ水。マンモスの背中をぬらし

た雨だったかもしれない」と。めぐりめぐって水の旅はそうなのだ。こんどは今の雨。

「この雨のひとしずく、これから、どこへいくんだろう?」とぼくの独り言。「水は、

旅をしている。旅をしながら、ぼくと、世界をつないでいる」と書いて長くて広い

水の旅を結んでいる。水の循環を通して視野の広がる本である。

著者の「あとがき」もいい。じっくりと絵を眺めて水の旅を味わいたい。  

          20179  1,400 

『和食のえほん』       江原絢子/監修   PHP研究所

昨今はフライドチキンやファーストフード店なども増え食環境は多様になっている。

そのような中にあって,この本は,日本文化の一つである和食についてふり返るきっ

かけになる本である。和食というとどうしても伝統的な重みが尊重されるが,この本

は,比較的普通の日本食の良さを取りあげ読みやすくまとめている。海外に住むおば

さんの家族が日本にやってくるという想定で和食についていろいろな話を展開してい

る。なんでも,海外では今は和食が人気だとか。そもそも和食って何だろうか。

日本の食事と言えばそれまでだが,まず「日頃家で食べているごはんやおみそ汁、焼

き魚やつけものも、伝統的な和食です」と取りあげている。そのほか「季節にあわせ

たごちそう」や「季節を味わう」食材も紹介する。「食べ物をむだなくつかったり、

季節感をだいじにしたりと、和食には自然をたいせつにするこころがこめられている

のね」とおかあさんの弁。和食の基本の形は「ごはん、汁もの、おかず、つけもの」

とのこと,これで栄養のバランスがうまくとれている。「一汁山菜」という言葉もあ

る。あと,「和食の食材いろいろ」で多様な和食の食材が紹介されている。「和食を

食べよう」ではマナーを少し、「和食の調理のきほん〈切る〉」で調理のこつと、煮

る、焼く、蒸す、揚げる、生の「五法」にふれている。次は「うま味とだし」、「和

食の味をつくるもの」と進む。そのあと「地域に根づいた和食」「行事に食べるごち

そう」など,日本食の地域性や日本人の文化などにふれていく。そしてポピュラーな

和食に触れる場として「すし屋さんに行ってみよう」「てんぷらを食べよう」「どん

ぶりで食べる和食」などが紹介されている。さらに「とくべつなおもてなしの和食」

と続く。最後に「抹茶をいただこう」「日本茶をのんでみよう」「和菓子」で結んで

いる。

全体を通してこの本は,和食は日本人のくらしと深く結びついて,自然の食材をう

まく利用した栄養のバランスがとれた健康食であることを説いている。日常の食生

活を振り返る一つのきっかけになる本である。      

                         20179月 1,600

             新刊案内3