私好みの新刊   2018年4

『ツシマヤマネコ飼育員物語』 キム・ファン著  くもん出版

この本は絶滅危惧種であるツシマヤマネコ繁殖事業ドキュメントである。繁殖
事業とは、野生動物を飼育下で交配させて無事に子孫を育て、やがてその子孫
を野生の地に返すという環境省の事業だ。子どもたちや市民の目に触れないこ
うした隠れた仕事も動物園はしている。
2014年、このツシマヤマネコ繁殖事業
に京都市動物園が参加を決めた。ツシマヤマネコといえば野生のネコ、そのツ
シマヤマネコ繁殖に取り組んだ飼育員の奮闘ぶりがリアルに描かれている。
著者は、京都市生まれの作家(日本児童文学者協会会員)で多くのノンフィクシ
ョンを書いているキム・ファンさんである。

 2015年1月、メスのメイとオスのマナブが福岡から京都の動物園にやってき
た。えさは「ニワトリの頭と胸肉、馬肉、アジ、ドライフードのほかに、生き
たハツカネズミやヒヨコ」とか。食べ物も並ではない。担当飼育者は、やってき
たヤマネコが飼育員にはなれるように訓練を続けていく。やがて繁殖の時期がや
ってくる。互いに異なるケージにいたメイとマナブに恋の雰囲気がめざめたとき、
マナブは心臓病で繁殖事業には不向きとなった。絶望の中、やがて新たなオスが
やってきた。そのオスは今までに各地の動物園をまわっていてあまりメスに興味
を示さないと言われていたキイチだった。やがてメイとキイチの好機が訪れ、そ
れではと同居させてみると交尾に成功。あとはメイのお腹が大きくなるのを待つ
ばかりと待っていても、メイになかなか産まれる気配がやってこない。ついに帝
王切開。野生動物も人の手で出産助けることもある。やっとの思いで2頭生まれ
たが、呼吸は長続きせず2頭とも心臓は止まってしまった。飼育担当者の長い夢
も一瞬にしてかき消されてしまった。しかし、飼育員はあきらめきれず次の年に
もメイとキイチを同居させてみる。メイに再度の交尾を成功させて出産にこぎつ
ける。こんどはスタッフの必死の介護で2頭の子どもは生き残った。ハラハラド
キドキのツシマヤマネコ繁殖作戦レポートである。   
201710 1,400
 

『那須山録オオタカ物語』  大滝孝久著  文芸社  

栃木県那須高原で約3年にわたって、オオタカの巣と子育てを追い続けた記録を
物語風に描いている。きびしい自然の中で子育てをするオオタカの成長を通して、
自然のつながりを次世代の子どもたちに伝えたくてまとめられた一冊である。オ
オタカの子育てを傍で見つめていたアカマツがやさしく語りかけていくという手
法で話がすすむ。「めぐる季節を、オオタカの親子はどのように生き、命をつな
いでいくのか。那須高原の一角の、あのアカマツの巣で起こる出来事を語ってい
こう」から物語は始まる。桜が満開になったころアカマツの枝に造られていた巣
にオオタカの親鳥が帰ってきた。そして新緑の頃、卵を温める姿が見られるよう
になった。「親鳥たちは、座り込んで卵を温めながら、絶えず辺りを見回してい
る。何か物音するだけで、そちらをするどい目つきでにらむ」。なるほど、卵を
ぬすむ人間もいるとか。6月になるとヒナが3羽育っていた。今度は、そのヒナに
与えるえさ探しが大変、キジバト程度で1日に5羽はいるとか。親鳥はえさ探しに
必死だ。しかし、なかなかえさが見つからない日も出てくる。雨の日はことさらえ
さが足りなくなる。お腹を空かしたヒナはどうするのか。成長の早いヒナが小さな
ヒナをつつき回し小さなヒナを巣から落としてしまった。鳥の世界は常に強いもの
勝ちの世界だ。やがて強いヒナは巣の上で飛び上がる練習をやり始、羽根を羽ばた
かせる。親鳥はえさを最初は巣に入れていたが、やがて近くの平らな枝に落として
ヒナたちの巣立ちをうながす。やっと2羽の幼鳥が飛び立つ日が来た。

何年かして巣作りに使われていた木の枝が朽ちて地面に落ちていた。動物も植物も
枯れ葉や糞を土に返していく。動物の体は、死んだ後には土に帰っていく。命を受
け継ぐ営みはとだえることがない。オオタカが見られると言うことは、豊かな自然
が戻りつつあることの証でもある。「かん境の豊かさを保つことが、オオタカの舞
う那須高原を守ることにつながるはずだ」としめくくっている。

                          201711月 1,400
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