私好みの新刊  20196

『フタバスズキリュウ もう一つの物語』 佐藤たまき/著 ブックマン社

フタバスズキリュウと言えば、今から50年も昔、当時小学5年生だった鈴木直(ただし)

さんによって発掘された首長竜の化石の名前だった。いわき市の双葉層で発見されたの

でこの名がついた。当時はまだ日本では、恐竜をはじめとした古脊椎動物の化石はほと

んど発見されていなかったことから、日本にも恐竜化石が見つかるかもしれないと大き

な話題になっていた。その後は日本でも恐竜化石が次々と見つかり、今も恐竜化石発掘

の話題が続いている。

 しかし、首長竜の化石発掘はその後あまりなかったことから、せっかく発見されていた

フタバスズキリュウの化石も、新種としての論文発表はされずに続いていた。論文として

世界の学会誌に発表されない限りフタバスズキリュウはあくまで通称でしかなかった。

 そのフタバスズキリュウ化石の論文作成に取り組んだ若い女性古生物学者がいた。本書

の著者でもある佐藤たまきさんである。ちょうど鈴木直さんがフタバスズキリュウ化石を

発掘して50年になる時を記念に佐藤たまきさんの研究歴がまとめられたのが本書である。

 子どもの時から知識欲旺盛だったたまきさんは、図鑑などを見て恐竜に心を奪われてい

たようだ。

その後、大学に入って浜田隆士さんなどの影響を受けて古生物関係の研究に首を突っ込

み、ついに首長竜の研究に取り組む。研究者といえども今はゆうゆうと研究室にこもっ

て研究できる環境にはない。海外を含め波乱万丈の研究生活の経過が綴られている。

なにはともあれ、さまざまな苦労を乗り越えて、首長竜フタバスズキリュウ

Futabasaurus suzukiが新種として認められた。その意義は大きい。著者の人生には恵

まれた環境も後押ししたと思われるが、研究職をめざす子どもたちには大きな刺激を与

える読み物である。                 201881,700 

 

『われから』    青木優和/文   畑中富美子/絵 仮説社

〈われから〉と読んで、どんな生き物か見当がつく人はかなりの生物おたくだ。〈われから〉

は、まだ知名度が少ない海の生き物で藻場にひっついて生きている。体長0.5から3cm

らいの甲殻類エビ・カニの仲間である。その〈われから〉に興味を持って早くから研究を

していた人がいる。著者の青木さんだ。青木さんは、天草や下田の臨海実験所などに勤め

るかたわら、この〈われから〉の研究もしてこられた。すでに10前にも〈われから〉の

本を出されている。今回、新たな編集者とイラストレイターも加わって新しく出版された。

ぱっと表紙を繰ると、内表紙にたくさんの〈われから〉が並んでいる。まるでカマキリを

細くしたような節のたくさんある生き物で、シリーズ名にもなっている〈なんじゃ こりゃ〉

である。

物語は、春の終わり頃、男の子とお父さんの二人で海底の藻場の上を潜水している場面か

ら始まる。藻場にたどりつくと、お父さんが海藻の枝の先を切り取って海の中でふってみ

ると…「ひょこひょこ おどるように およいでいる ほそながい いきもの」が男の子

の手に乗っかった。それが〈われから〉だった。「ほそながくて ふしぎなかたち だけれ

ど えびや かにの なかまです」とある。〈われから〉は、本当は体長数センチぐらい

だが、大きく拡大した図も出てくる。後ろの足で、器用に海藻につかまっている。大きな

かぎのついた手も描かれている。次ページでは、口のあたりがさらに拡大されたくさんの

珪藻を取り込んでいる絵がある。〈われから〉の歩き方はまるでシャクトリムシ、身体を

くねくねさせながら海藻の上を歩いていく。やがて、メスのおなかから小さな子どもが顔

を出す。子どもたちが遊んでいると〈おはぐろべら〉がにらんでいる。子どもたちは藻に

なりすまして難を逃れている。「また、もばに つれてきてくれる?」と男の子、すっかり

藻場が気に入ったようだ。イラストもシンプルでわかりよい。

                           201931,800

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