私好みの新刊 20197

『ライチョウを絶滅から救え』   国松俊英著  小峰書店

  ライチョウは立山や白馬岳などの高山帯にだけ棲みハイマツ地帯などでしばしば

お目にかかる鳥である。ライチョウは地球の寒期に大陸から日本に移り棲んだもの

の、温暖期に入ってからはアルプスの高山にのみ生息している。そのライチョウ保

護に向けて地道に取り組んできた科学者を追ったルポがこの本である。

ライチョウ絶滅危機の原因には、近年の地球温暖化による生息地域の減少と、野

生動物の高山への進出がある。今は従来からのオコジョのほかにサルも天敵とな

っている。この本では、それらの環境変異や天敵からライチョウを護るための活

動のようすがわかりやすく綴られている。

 もう20年も前から信州大学の中村浩志さんたちは、小型ケージを作ってそこに

ライチョウを追い込み外敵からヒナを護る活動をされてきた。1951年に、大町市に

「大町山岳博物館」ができて、ライチョウの生活実態調査や生息数調査も進んだ。

ライチョウは孵化しても成鳥になれるのは15%ぐらいという。厳しい生育環境で

育っている。日本のライチョウの特徴は世界のライチョウと違って人を恐れない

のだという。私も何度か立山で写真に撮ったことがあるが、人が近づいてもそん

なに逃げたりしない。日本のライチョウは神の使いとされて昔から人々が守って

きたからだという。

さて、ライチョウの地道な保護活動はその後も続けられ、今は標識をつけて個体

識別もされている。近年、ライチョウ保護増殖計画も企画されて〈生息域内保全

活動〉としてケージ保護を、〈生息域外保全活動〉として動物園などでの人工飼育

もおこなわれている。小さな野鳥保護に取り組む人々の熱意と姿が描かれている。

                      201812月刊  1,500

 

『めんそーれ! 化学』 (岩波ジュニア新書)  盛口 満著 岩波書店

 『めんそーれ! 化学』とは「いらっしゃい 化学」という意味。著者の盛口満さ

んが、沖縄の夜間中学で化学の授業をされた時の記録がまとめられている。夜間中

学というと、なんらかの事情で中学を卒業でなかった人たちが入学してくる学校で、

沖縄では高齢者も多い。

本文から一部を拾うと

  塩の性質を見てきたところで、つづいて砂糖の性質を見ていくことにする。

「砂糖を火にかけるとどうなりますか?」

「燃えます」

すかさず返事が返ってきた。

「戦時中、家に爆弾が落ちたんです。そのとき、防空壕に砂糖をたるに入れてか

くしてあったんです。・・・たるのなかの砂糖に火がついて、プクン、プクンと

火がでました。そのときの火なんですが、赤というより青い火でした。農家だっ

たので、土地が広くて延焼の心配はなかったんですが。防空壕の砂糖は23

燃えていました。・・・」

 「うちは砂糖をびんに入れて地面にうめていたから、空襲のときも大丈夫だったよ」

ものすごい体験談だ。夜間中学の理科の授業では、とあるきっかけから、生徒た

ちが自分たちの経験を語り出すことがしばしばある。こうした経験談は、僕も知

らないことだらけだ。だから夜間中学の理科の授業は、僕にとっても学びの場だ。

だれかが自分の体験談を話すと、われもわれもと、自分たちの体験談を話しだす

のも、夜間中学ならではの光景だ、と盛口さんは語っている。実体験が結びつい

た化学、ここには授業本来の姿が描き出されている。

学ぶことの楽しさがこの本から伝わってくる。      

 201812月刊  880

新刊案内 2019,07