私好みの新刊 20199

『ようこそ! 葉っぱ科学館』   多田多恵子/写真・文 少年写真新聞社

 「科学館」とタイトルに書かれているだけあって、葉っぱに関するさまざま

な情報が盛り込まれている。専門家の著者ならではの目の付け所が興味深い。

カバー表紙裏に「葉っぱはいつもねらわれています」とある。葉っぱはただ光

合成をするだけの器官でのんびり構えていると思っていたら、そうではなさそ

うだ。「草食の虫や動物だけでなく、暑さや寒さ、乾燥も強敵です。だから、

生き残るための知恵を働かせます。」と書かれている。どんな知恵を出してい

るのだろうか、興味をそそられる。

初めに「葉っぱの工場見学」と題して、表皮細胞や気孔の写真が紹介される。

市販のミニ顕微鏡写真が生きている。「大きいと得?」という項もおもしろい。

亜熱帯に生える大きな葉っぱの植物、高山で生える小さな葉っぱの植物、そ

れぞれの生活環境に応じた植物の知恵なのだ。「水玉ころりん」も「なるほど」

と思わせられる。サトイモの葉は、表面がマイクロサイズの突起でおおわれ

ているとか。葉は水を玉に変え、重い水玉を振り落とし、汚れもきれいにし

ているとのことで、葉っぱにそんなミクロの構造が備わっている。「ロータ

ス効果」と呼ばれて、防水加工技術にも応用されているとか。 

葉っぱには水孔という器官もある。夜にたまった不要な水を出す穴が葉先に

ついているとか。見れども見えずでふだんあまり気づかないが確かめてみよ

う。「若葉のサングラス」も意外である。若葉の赤い色で紫外線をよけて身

を守っている。葉っぱには香りのきつい葉もある。それには「かおりの貯蔵

タンク」が備わっていて外敵から身を守る手段にしているが、その上手をい

くのがアゲハチョウの幼虫とか。アゲハチョウもしたたかな生き物だ。「葉っ

ぱにひそむガラスのトゲ」もすごい。すすきの葉にはサメの歯に負けじと鋭

い歯がずらり、その葉の成分はケイ素質のガラスというから驚く。これでは

草食動物もかなわない。氷点下で葉はなぜ凍らないのだろう? これも考えて

みると不思議な現象だ。葉は、冬になると含まれている水分の糖分濃度を

上げて、氷点下でも凍らないようにしているとか。

まだまだ、葉っぱのふしぎが続く。葉っぱのしくみを科学の目で見直すこと

ができる本である。   

 20191月刊   1500

『身近なアリ けんさくブック』 吉澤樹理/著 みぞぐちともや/絵 仮説社

見て楽しめるハンディーなアリ検索ブックが出た。野外でちょこまか動き回る

小さなアリの検索本といえばてっきりマニア向けかと思いつつページをくって

みると・・・意外と読みやすい科学読み物スタイルである。小学生でも読める

文章と文字が並んでいる。検索ブックというお堅い本ではなく、次々と中味に

ひかれていくから不思議だ。まず、この本では、アリ検索の目安は「大きい」

か、「中くらい」か、「小さい」かにしている。「大」「中」「小」ぐらいなら、

だれにも見当はつけられそうだ。その中での区別のポイントは〈腹柄(ふくへい)(せつ)〉と呼

ばれているアリ特有の突起にあるとのこと、そこを虫眼鏡などで確認していく

と種の特定はそんなに難しくもなさそうだ。その他、親しく読める工夫はそこ

ここに見られる。まず、見開きで一つのアリというのも見やすい。さらに、そ

の見開き二ページの中に、上から、横からの写真が並び、それに野外での写真

も添えられている。アリは頭部、胸部、腹部の形が微妙に違う。腹柄(ふくへい)(せつ)も含め

て各特徴がよくわかるように工夫されている。さらに、「3つのきめて」として、

およその目の付け所がコンパクトにまとめられている。「@胸が赤色 A大きな

からだ Bたいてい一匹でエサをさがしている」などと記載も簡潔である。さ

らに巣の写真と個体のイラストが添えられている。イラストは写真以上に特徴

が把握できる。さらに「おもしろ豆知識」もイラスト入りで書かれている。図鑑

にしては珍しい一コマである。さらに、今どきのQRコードもつけられていて、

ここをスマホなどにかざすとすぐに動画が見られる。アリの歩く動きもさまざ

まなのがよくわかる。その他、生活環境や巣の形、発見の度合い、生息域など

の情報も組み込まれている。アリ採集の仕方や観察、飼育の方法なども細かく

紹介されていて観察ブックとしては至れり尽くせりである。ムシ類まったくダ

メ少女だった著者がアリ研究者になった話や、著者と編集者がアリ撮影のため

にかけめぐった珍道中物語などが『たのしい授業』2018,112019,01に書かれ

ている。あわせて読むとアリ研究の楽しさが伝わってくる。

                20191月刊   1800
              
新刊2019,09