私好みの新刊 2019年12月
『ナマコ天国』 本川達雄/作 こしだミカ/絵 偕成社
海の珍動物、ナマコの絵本である。棘皮動物門に属すとか、ウニ、ヒトデと同
じ仲間らしい。何はともあれ海の珍動物で食用種もいる。著者の本川達雄さ
んは、昔からの生物学者で『ゾウの時間ネズミの時間』1992、『歌う生物学』
1993 などの著作がある。歌の好きな生物学者としても知られているユニーク
な学者でもある。このナマコの話は 『歌う生物学』にもあるが、今までの長
年の研究成果をこの絵本にまとめられた。こしだミカさんの絵がこの本の魅力
をさらに強めている。
ぱっと見開きの大胆なサンゴの絵がまず飛び込んでくる。サンゴもいろいろいる。
場所は、沖縄の海岸に移る。「なんだ なんだ、海辺にゴロゴロころがっている
この 黒いかたまりは・・・」と子どもの声がおもしろい。次に、大胆な黒
いナマコの絵。つつくと、ふにゃっとへこむ変わった生き物、ギュッとにぎる
とカチンコチン、ごしごしこするととけてしまう変な生き物だ。
次からは、ナマコの言葉でナマコの話が続く。子どもの疑問に答える形を取っ
ているのが、面白く読める。ナマコを輪切りにすると、厚い皮と体液しかない。
体液部分にちょこっと内蔵が浮いているという面白い体の作りだ。お尻で息を
吸う変な生き物である。ナマコは、目無し、鼻なし、耳なし、心臓なし、脳も
なし、それで生きている不思議な生き物だ。耳も鼻も耳も無いから脳はいらな
いという。なるほど。ナメコの皮はなんと60%もあるという分厚い皮だ。その
中に、小さな骨が多数散らばって入っているのだと書かれている。そういえば、
海の生活だし立つ必要はないか。
次にナマコの仲間、棘皮動物の仲間の話が出る。ウミユリも仲間だとか、ウミ
ユリは石灰岩の化石としても出てくる何億年も前からの生き物だ。「ナマコと
文学」とかもあるので、そうとう昔からナマコは人々に知られていたらしい。
最後に、ナマコの省エネ術の数々が紹介されている。ナマコは急極の省エネ者だ。
最後は「ナマコ天国」という歌で終わっている。さすが、本川(もとかわ)さんだ。
2019年6月刊 1,600円
『火山はめざめる』はぎわらふぐ/作 早川由紀夫/監修 福音館書店
富士山が噴火すると言われて久しい。現に富士山は何度も噴火を繰り返してい
ることがわかっている。『富士山大ばくはつ』『もし富士山が噴火したら』など
の本も出ている。全国に点在する火山はいつ噴火するかわからない。ただ、今
は噴火直前の兆候は地震波などで知ることができる。
この本は、長野県と群馬県にまたがる浅間山が舞台となっている。今は、時々
噴煙を上げるが、一応静かな山容を示している。絵本の挿絵は、そこから始ま
っている。上空から、火口がすっぽりと見える。「なん万年もねむる火山だって
ある」と書かれている。次頁をくると、急に噴煙の絵が出る。昭和の噴火だ。
浅間山は、昭和になってからも何度も噴火を繰り返している。
昭和の初めころの噴火か、田畑の人々はのんびりと噴火を眺めている絵が出る。
「火山が目をさましたんだ」と、人々はのんきに構えている。これは火山の南
側の話で北側は火山灰をもろにかぶることになる。火口のそばでは大変だ。大
きな火山礫が降っている。それでも登山の人はのんびりとしている絵が描かれ
ている。溶岩に紙を押し付けて焚火を楽しんでいる絵がある。これはいくら昔
の絵とは言え危険を誘う絵ではないか。現に、御岳山の危険な例もある。
次は江戸時代の噴火の様子。今から200年前の猛烈な噴火だ。山の北側は大変、
大き溶岩、軽石が容赦なしに家々を直撃する。人々は逃げ惑う。大きな軽石に
打たれて死ぬものも出る。お釜は真っ赤な溶岩がにえたぎっている。火口から
真っ赤な溶岩が流れ出る大噴火だ。そのような噴火は平安の時代にもあった。
火砕流も起きた。熱い軽石と火山灰の濃いものすごい噴煙だった。この時、
大地を埋め尽くした。大地には何年も誰も近くに行けなかったとのこと、それ
でも長い年月が経つとやがて植物も生え虫も来て動物も来るようになった。
火山には、時には「山体崩壊」も起こす。あちこちに流れ山を作っていた。
25000年前の記録である。過去の何度もの噴火の上に今の町がある。今も静
かに煙を出す程度の山がいつまた大噴火を起こすかわからない。そのことを
静かに伝える本である。 2019年6月刊 1,500円