私好みの新刊 202001

『ほうさんちゅう』  松岡篤/監修 かんちくたかこ/文  アリス館 

 科学読み物というより、放散虫化石の体の小さな写真集といった本である。

ひとつひとつの放散虫化石のからが大きく載せられているビジュアルな写真集で

ある。そもそも、放散虫というのはどんな生き物だろう。地質の専門家は別とし

て、あまり知られていない生き物だ。そこで、専門家の松岡篤さんの言葉をかり

てみよう。

「いまから5億年前に、骨格をもつ生物となった放散虫。繁栄や大絶滅をくりか

えして、現在の海にも生きつづけています。みなさんがすむ地域のまわりの海で

も、ひっそりとくらしているはずです。この本にのっているのは、すべて1個の

石からとりだした放散虫の骨格です。・・・」

と、書かれている。手のひらに乗る小さな赤い石は放散虫化石の集合体だ。石好

きの人にはおなじみだが、チャートである。日本にも多い。1970年ころ、この

微化石のちゅう出に成功して、チャートは単なる石英ではなくはるか大洋低の堆

積物であることがわっかた。堆積した年代が細かくわかることから、日本列島の

地質が再構築された。また、日本列島が付加体(南の海からの堆積物)であること

の証拠にもなった。放散虫の化石は地質学では大切な事象となっている。

 本の終わりに、放散虫のわかりやすい解説がある。写真のように化石として残

るのは放散虫の殻の部分であるが、放散虫そのものは原生生物である。この本で

は放散虫化石のオンパレードとなっている。

 本をめくると、見開きで放散虫化石の密集写真がある。あとは、一つ一つ拡

大写真が出る。小さな海の生きものは、死んだあとマリンスノーとなって海の

底に降り積もって化石となる。角あり、放射状のもの、つるつるの丸いもの、

釣鐘型もある。再び、一面の放散虫の写真で終わっている。美しい放散虫化

石の写真が楽しめる。最後に放散虫についての解説がある。

放散虫は、虫と名はつくけれど硬い二酸化ケイ素の殻を持つ海の浮遊動物で

ある。赤いチャートには放散虫化石がぎっしりつまっていることが多い。 

          20197月 1,400

『よるのいけ』松岡達英さく (「かがくのとも」20199月号)福音館書店 

 小さな子どもにとっては、なかなか夜の水辺を経験することはない。しかも、

特に森の中となるとなんとなく夜は怖い世界だ。そのような世界を体験して絵本

は作られている。作者の松岡さんは、付録の「かがくのとも(あとがき)」の中で、

次の様に書いている。

他の夜もすごく魅力的です。モリアオガエルの産卵はたいがい夜中、他の周囲からオス

ガエルが出てきて今夜の産卵場所に向けて泳いで集合し、そして木に登ります。その中に

は、池の水をたくさん飲んで大きく膨れたメスも混ざっています。その背にはオスを2

くらい乗せています。ケローツコローツと大合唱、池は真夜中の祭りのようです。なんと

いっても一番人懐っこいのがツチガエル、臆病なのがトノサマガエルで、ツチガエルはカ

メラのレンズに触れそうなところまで来ます。そんな時にスイレンの葉の陰から「ジー」

と見ているのがトノサマガエルでした。」

 トノサマガエルが臆病とは、大人も気が付かない。夜の水辺はなかなか面白いらしい。

 本では、最初夜の水辺が出る。薄暗い池に面した場所にテントが張られている。

「ホッホー ホッホー キャンプじょうに コノハズクの なきごえが こだまする」

不気味な世界だ。

 次は、お父さんらしい人に連れられて、いよいよ夜の水辺の探検がはじまる。夜も

ふけて夜空もきれい。星がキラキラ輝く。池の上は、なんとなく霧が立ちのぼる。

「チッチッチッ ジー ジー セスジツユムシが ないている。・・・」

セスジツユムシやクツワムシがいる。こんどは「ゲッゲッゲッゲッゲッ」なんだか池の

中が騒がしくなる。懐中電灯を照らすと、たくさん生き物がいる。アマガエル、トノ

サマガエル、ツチガエル。カエルの大合唱である。うっすら世界で見ると、トンボの

ヤゴやアメンボ、マツモムシもいる。懐中電灯を照らすと、さらに生き物が見える。

ついにモリアオガエルの卵も発見、夜の探検も終わりに近づく。

                           20199月  407

              「新刊案内1月」