私好みの新刊 202011

『チョウはなぜ飛ぶか』 日高敏隆/著 (岩波少年文庫) 岩波書店

             202005  760

 この本は、『チョウはなぜ飛ぶか』が1975年に出版されている。新版も

1998年に出版され、この本を元に作られたので随分古い内容ではある。

しかも、著者の日高敏隆さんはとっくに他界されている。それなのに今また

再版された。その意図は何か。編者の舘野鴻さんは「あとがき」でこう書

いている。

「チョウはなぜ飛ぶか―。まず、その疑問を発見したことがすごい。

漫然とチョウが飛ぶすがたを見ていてもそんなことには気がつかない

からだ。この発見は日高少年にとって壮大な探求の旅の入口となり、

その後の人生を決定づけたように思う。少年は、チョウを追えば追う

ほど新たな「なぜ」にぶつかり、あの手この手でそのなぞに立ちむかう。

そして、たくさんの失敗すら見方につけて、その理由に接近していく。

少年はいつしか動物行動学者となって、チョウを追っていた。」と。

その日高さんの少年から壮年までの昆虫人生が楽しく描かれている。

チョウの解説書ではなく、日高さんが日々チョウに対する疑問をいだき失敗

しながらもそれを解明していく過程がくわしく語られている。

 まずは、小学生時代からの「チョウの飛ぶ道」。観察をくりかえしながら

アゲハチョウの飛ぶ道を特定していく。アオスジアゲハも登場する。アゲハ

チョウのオスはどのようにしてメスを見つけるのかの疑問も解明していく。

小学校時代はだいぶ個性派だった日高さんはやがて昆虫研究のおもしろみには

まりついに動物行動学者に成就されていく。その間の話がおもしろい。

「ぼくはまだ研究のとちゅうにあることについて書きたかった。いろんな失敗

や、ばかばかしいまちがいを書きたかった。」

と日高さんは〈あとがき〉に綴っている。その通りである。

文章は肩をこらずに読み進められる。

 

『コンパスが南をさすとき』 陰山聡/著  くもん出版

 近年、地球の磁気に関心が強まっている。最近、千葉県の川原で出た海成層が、

地磁気逆転の痕跡があるところとして有名になった。地磁気の話は、地学的とい

うより電磁気の話もからむので子どもには少々難しい。その地球磁気に関する子

ども向きの本が出た。文字も大きく、挿絵も書かれているのでなんとか小学生も

アウトラインは理解できそうだ。 

 最初は平凡な磁石の話から始まる。ここで球形磁石の概念も入れている。地球は

丸い球形磁石なのだ。いよいよこれから地球磁場の話になる。地球内部に液体の鉄

の層(外核)がある。 この層で液体鉄が動き電流が発生している。電流が起きると磁

気が発生する。簡単なコイルと電流計で実験はできることが挿絵で示されている。

ここでは、地球の外核部分で左回りに電流が動いている図が示されている。電流の

向きはいろいろ異論のあるところだ。次に「地球磁場と生き物」がある。ここでい

きなり伏角の話が出る。これだけの説明では少々理解しにくいかも知れない。縦形

の方位針を使うといいかも知れない。次は「地球磁場の働き」へ。地球磁場のおか

げで、太陽からの磁気嵐等をほとんど防いでいるので、わたしたち人類も生きてい

られる。そこでいよいよ「地球磁場の逆転」の話に入る。長い年月の間にはしばし

ば地球磁場(N,S)の逆転があった。その最近の逆転層が(77万年前)

にあって千葉県に出ている海成層である。「チバニアン」と名付けられていること

も紹介されている。地磁気が「逆転するようす」も簡単に図示されているが、電流

の動きはそう単純ではなさそうだ。その他、最近の地球磁場の研究も紹介されている。

なにせ、見ることのでない地球内部のこと、今はコンピューターを駆使しての大掛か

りな研究の様子が読み取れる。           2020 5  1,400

 

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