私好みの新刊 202110

『池の水 なぜぬくの?』  安斉俊/著・絵   くもん出版   

 各地にあるため池の水抜きが最近よく行われている。いずれも、その池

を管理する管理組合が計画し大々的に行うものだ。しかし、水抜きそのも

のは多くの人がかかわり、集団で行うのでボランティアの参加もありうる。

そのときの注意点など細かく書かれている。この本は子ども向けに書かれ

ているが、子どもが参加できるのか疑問ではあるが、各校などにあるビオ

トープをどのように管理するかの参考になる。

 最初に、自然の池と人口の池と区別することが書かれているが、わたし

たちがよく目にするのは農業用のため池である。近畿地方など小さなため

池が田んぼの合間に点在する。最近は大きな川の増水を食い止めるための

遊水地も各地につくられている。大きな都市公園の一部に池があることも

ある。この本にいろいろ書かれていることは、池にいろんな魚や小動物が

いることは見てわかるが、当然微小生き物もいてお互いかかわりあっている。

そのことも簡単なイラストで描かれている。

 ところで、池の底には泥がたまる。これはただの泥だけなのだろうか。

泥の中に生息する微小生物がたくさん棲んでいる。ということは長く置い

ておくと泥の酸素濃度が足りなくなってくる。池の水を抜く一つの目的は、

この泥を書き出して底に太陽光を入れて酸素濃度を高めることにあると書

れている。特に最近は外来種放流も目立ち在来種が少なくなっている現実

がある。しかし、池の水抜きは外来種除去だけが目的ではないのだ。

 実際に水を抜くにもただ水を流せばいいとはならない。その池に棲む生

き物調査を先にしておくことが必要である。固体の数はもちろんのこと大

きさまで計測する。固有種など棲んでいる場合の扱い、外来種と言われる

生き物の扱い等、いろいろみんなで考えておかなければならないことがた

くさんある。それらを細かく書かれているので、池を管理する側の研究者、

大人にも参考になる。           20212月 1,540

 

地球がうみだすのはなし
       大西健夫・龍澤彩/文西山竜平/絵 福音館書店
 

 話は、一本のコナラの木から始まる。堂々たるコナラの木、

「さいしょ、ぼくは小さなどんぐりだった。」とつぶやく。それがこんな

に大きくなれたのは「土が根っこをしっかりささえてくれた。」と、土の

大切さを書く。土にはいろんな生き物がまじっている。でも、その土は

「もともと、ザラザラした小石だったんだ。」から始まる。あるとき、

火山が吹いて火山灰をまき散らす。荒涼たる風景だ。やがて、雨も降る。

火山灰や砂粒の成分が溶けだす。火山灰のすきまには、水と空気にまじっ

て微生物も棲み出す。やがて小さな生き物の糞が増える。やがてキノコや

カビが出てくる。枯葉をぼろぼろにする。その枯葉をダンゴムシが食べ、

トビムシも食べる。とこんな風に、初めはたんなる火山灰が、土に変身し

ていく。土の中の小さな虫やカビ類のイラストもよく描けている。やがて、

表面にできた土は、だんだんと深まっていく。そうすると、植物も根を張

ることができる。モグラや昆虫類もやってくる。「土も、息をしている。」

と書く。

 最初の火山灰が、土になるまでは長い長い時間がかかる。1000年から長

いものは100万年ぐらいかかるとのこと。なんでもない土も、地球の長い

歴史の産物である。そこに多くの植物が生え、動物が生きていける。わた

したちの足元の土にも「たくさんのいのちが、ぎゅっとつまっている。」

ことを、最後に書いている。

 後半にくわしい解説がある。こういう子ども向けの本としては珍しい。

それによると

「土は、陸の上で、生き物の有機的世界と鉱物の無機的な世界とが出会う、

ちょうどその境界面にじわりじわり作り出されてきました。・・」

「土は大小様々な土粒子と、粒子と粒子の間を埋める隙間から構成されています。」

「私たちの足元にある土が生み出されてきた長い長い時間に思いを馳せることは、

わたしたちの生き方そのもの、地球上に暮らす生き物としての人間のあり方につい

て考えることにもつながるのではないでしょうか。」

と、水文学者、大西健夫さんは結んでいます。子どもにもわかりやすい土の話です。 

                            2021 3   1,430円 

〈新刊案内10