私好みの新刊 2022年12月
『オオムラサキと里山の一年』 (小学館の図鑑NEO) 筒井学/写真と文 小学館
国蝶とよばれているオオムラサキはかつて近くの里山でもよく見かけた大型のチョウ、
ところが最近はなかなかお目にかかれない。本書は、その国蝶の一生を美しい写真でく
まなく綴っている。
 最初は雑木林のクヌギの樹液に集まる昆虫たち、スズメバチやカブトムシもいる。
そこに、大きな羽を広げたチョウが一匹、オオムラサキのオスだ。美しいブルーの色が
一きわさえる。オオムラサキは長いストローをのばして悠然と蜜を吸う。やがてオスは
メスと出会う。そして、交尾。これらの写真はめったにお目にかかれない。オスもメス
も羽根を閉じて交尾、羽根の裏側は地味な黄緑色なのでまわりの木の葉と見事に調和する。
次はメスが榎の葉に産卵、100個近くも生むという。縦に筋が入った小さな卵は、やがて
黒づんで来る、そしてふ化が始まる。新たな命の誕生だ。一齢幼虫はやがてエノキの葉を
かじっていく。しかし、この時が危険。一匹がアリにつかまった。この時に多くの幼虫が
命を落とす。2齢目になると2本の角が出て急にりりしくなる。エノキの葉の上でゆっく
りと成長していく。10月になるとやっと4齢幼虫で大きくなってくる。やがて秋が近づ
き樹々は葉を落としていく。幼虫の色も落ち葉にとけこんで、なんと幼虫は樹木の下に
落ちた落ち葉に潜りこんで行く。そこで越冬だ。そして、長い冬を越した幼虫にやがて
春が訪れる。するとこんどはまたエノキの木を登って葉にたどり着く。そして、また脱
皮をし5齢幼虫に成長する。そこをねらっている鳥もいる。運よく難を逃れた蛹は朝日
を浴びる中成虫を生み出していく。美しいチョウの誕生、命は繰り返されていく。
最後に著者は、このようなチョウを生む里山の継承を訴える。 
                           2022年7月 1,300円

『虫のオスとメス、見分けられますか?』 森上信夫/著  ベレ出版
 児童書ではなく一般書に入るが、昆虫のことでもあり写真が大きく鮮明なので取り上
げた。小学校高学年児以上で虫好きは興味深く読めるのではないか。哺乳動物のオス、
メスは外見上で見分けがつく。ところが、生き物の半数以上をしめる昆虫では、オス、
メスの区別はつきにくい種が多い。別に昆虫にまで雌雄の区別をする必要はないのだが、
ある程度雌雄の区別が出来ると興味も増してくるし、飼育するには必要な知識でもある。
 昆虫には雌雄の区別のつきにくい種もいるが、多くは目視で区別できる。本書では「か
たち」と「色・もよう」を取り上げている。さて、その「かたち」はさまざまである。
 まず取り上げているのは「触角」。コガネムシ類やカミキリ、ガガンボ、ガ類は触角の
大きいのがオス。これらの昆虫には触角の形に注視したい。つぎに注目するポイントと
して「前足」が出てくる。カナブン、ゴミムシなどの甲虫類、チョウの一部が出てくる
が、こちらにはルーペがあるほうがよい。次に出てくるのは「産卵管」。キリギリスやコ
オロギなどでこちらは区別しやすい。次に「尾端」が出てくるがちょっと見にくい。ト
ノサマバッタやタマムシがいる。次に「他の部位」として紹介されているのは頭にある
ツノ、これはカブトムシなどで一目瞭然のもいるが、オトシブミなどちょっと注視がい
る種もいる。後は、トンボ類が出てくるがちょっとややこしい。セミ類は腹面を見ると
まず間違うことはない。鳴くのはオスなのでオスの腹弁は大きい。あと見どころとして
「色・もよう」があるがチョウや一部のトンボが紹介される。チョウは色のバラエティ
が大きいのであまり統一性がない。見てきれいなのはだいたいオスだがツマグロヒョウ
モンやチョウトンボなどはメスがきれい。
 昆虫類がこれだけ多様な形や色を持つのは長い進化の証かも知れない。
                            2022年 5月 1,600円
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