私好みの新刊 2022年1月

悩めるアルコールランプくんとandフタくんと理科準備室の実験器具たち』
                     うえたに夫婦/絵・文  仮説社 
 変わった本が出た。本ではアルコールランプくんとガスコンロくんが主役として
登場しいろいろと議論が始まる。今の学校現場では、使われなくなった実験器具は
多い。それらの実験器具の代表にアルコールランプとガスコンロが登場する。
 何を目的にこの本が生まれたのか「作者のことば」を読むと、テーマとしては
「実験器具の今と昔」になっているが「〈古いものの良さ〉を見つめ直すきっかけ
になればいいな」とも書かれている。今は学校現場も実験器具もデジタル化されて
いることが多い。しかし、子どもたちにはアナログの方がわかりやすいことが多い。
原理を理解するにはアナログ世界がいい。せっかくなら、そのあたりをもう少し強
調してもいいのではと思う。
 さて、本書ではアルコールランプくんとガスコンロくんが主役となり、いろいろ
議論する。黒板を初めとして学校も様変わり、百葉箱も長らく立ったまま使われる
ことがない。古い器具が集められている〈開かずの棚〉が見える。そのうちあそこ
に入れられるのかとアルコールランプくんは気が気ではない。そのときちょうど居
合わせたガスコンロくんが〈どちらが便利なのか〉議論を仕掛ける。そのかけあい
が面白い。火のつけやすさや火力の調節のしやすさはコンロの方に勝ち目があるが、
火の消しやすさは引き分けで進む。ただ、アルコールランプには転ぶとアルコール
が流れ出る欠点がある。しかし、これも経験である。アルコールは液体ではそんな
に燃えない。机上さえ整理して濡れぞうきんなど用意しておけば、ランプが転がっ
てもそんなに慌てることもない。机上ではアルコールはあまり燃えない。そのアル
コールも芯を通して吸い上げると炎を作る。炎の学習になる。ローソクの火の学習
ともつながる。これはガスコンロでは体験できない。
 最後に、ガスコンロくんが気づく。
「ボク、自分が新しい実験器具だからって 調子に乗ってたっす」と反省する。
古い器具たちが〈開かずの棚〉にいっぱい格納されている図が内表紙にある。でも
使い道は多い。ばねばかりや滑車、輪軸、モノコード、音叉などは見て聞いて直接
体験できる。電熱器は目で熱を感じられる。まだまだ使えるぞと言っているようだ。
                               2021年9月  1,500円 
『クジラの骨と僕らの未来』  中村玄/著  理論社
 大半は、著者中村玄さんの小中高校時代の哺乳動物とのかかわりから、大人にな
ってからのクジラ人生までの一部始終をドキュメンタリー風に書いている。ふだん
あまり体験できない経験なので、動物好きの中高校生も楽しく読めるのではないか
と取り上げてみた。
 著者は中学生時代から変わっていて、グリーンイグアナなど爬虫類が好きだった
ようだ。その彼の心に火をつけたのは、同じ中学校の理科の先生だった。哺乳類の
内臓を生徒に見せたりする異色の教員だった。著者は「動物の体ってなんて精巧に
できていて奥深いんだろう。」と感激する。それから彼の動物志向はますます広ま
って、高校に入ると生物部に入り、タヌキの骨格標本など手掛ける。高校ではまた
タヌキの骨格標本作りなどを試みる。高校では透明の骨格標本なども見せられます
ます哺乳動物に興味をいだく。やがて、高校2年生で南米アルゼンチンに留学し、
ここでもいろいろな動物に触れる。そのアルゼンチン沖で雄大にジャンプするクジ
ラに出会う。この一時が彼の人生を変える運命となった。帰国後、彼は水産大学に
進み、水産生物研究会に入ってさらに魚の骨格標本作りなどに精を出す。いよいよ
大学四年生になって卒業研究する時に、またクジラの専門家と出会う。クジラが茨
城県の浜に打ちあがったため、クジラの調査に駆り出され、生のマッコウクジラに
出会う。巨大なクジラの解体作業に出合う。さらに著者の卒業研究は沖縄周辺に生
息するザトウクジラの標識調査だった。生息しているクジラのなまなましい生態を
数々体験した。クジラの遊んでいる生態も見る。しばくして、とうとう南極海鯨類
捕獲調査に加わることになった。調査母船「日新丸」に乗り込む。その船上での様
子がドキュメンタリー的にくわしく書かれている。ふだん体験できないことなので、
興味深く読める。
 著者は帰ってからもクジラの骨の研究を続ける。時には、ノルウェーに行ったり、
アルゼンチンに行ったり、学会に出たりしてミンククジラの骨格等を研究している。
クジラが長い年月をかけて陸から海へ進化したことをとりあげ「古くて新しい研究
分野、それが大型鯨類の形態研究なのだ。」と締めくくっている。大型哺乳類、鯨
研究の大切さが「僕らの未来」だと子どもたちに発信しているようだ。               
                             2021年 7 月  1,300円
             
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