私好みの新刊 2022年8月
『都会で暮らす小さな鷹 ツミ』(たくさんのふしぎ3月号
                   兵藤 崇之 /文・絵 福音館書店
 ツミは猛禽類の一種で、今まではなかなか見るのは難しい鳥だった。1999年
に出版された上田恵介監修の鳥の図鑑を見ると、「かつてはまれな種と思われ
ていたが、森林を生息スズメやシジュウガラなどの小鳥を狩っている鷹なので、
見過ごされていたものと思われる。しかし、最近関東地方を中心に、都市公園や
住宅地への進出が目立ち、意外な場所の街路樹に巣を掛けていることがある。」
と記されている。もう2000年代になるとすでに都会に進出していた鷹なのだ。
とはいえ、都会では普段なかなか気づかない鷹である。その鷹の営巣から、抱卵
子育て、子の旅立ちまでを著者は記録し一冊の本にした。写真を使わないで、ツ
ミの様子はスケッチで全頁に描かれていて、鳥の本としても美しい。
 横浜市の住宅街で突然のツミの声、近くの街路樹にツミは巣をつくっていた。
そこから、著者の丹念な観察が始まった。最初にツミなどが含む猛禽類の説明が
ある。ハヤブサやフクロウなどが入る。観察の仕方など注意点の説明があり渡り
の話が少し入る。双眼鏡で見たツミの絵が何枚も描かれてい。続いて、ツミの狩
りの様子が大胆に描かれている。ムクドリが餌食になっていた。サクラの花が散
るころツミは恋の季節を迎える。ハザクラの頃、こんどはツミの巣作りのようす
が描かれる。近くの木の枝をツミは器用に折って営巣木に運ぶ。巣が完成すると
やがてメすは産卵を始める。するとオスはメスの獲物も運んでくるので忙しくなる。
メスはその獲物を空中で受け取る。その様子もくわしくに描かれている。このよ
うにして、ひなの誕生から、子育て、カラスとの対決、ひなの巣立、そして、渡
りで飛び立つまでも克明に淡い絵で描かれている。    
                           2022年3月 700円 
『このあな なんじゃ ②  つちのなかのいきもの へん』
       さかもとひろのり /さく みぞぐちともや /え  仮説社
 「このあな なんじゃ」シリーズ2が出た。前のシリーズ1は干潟だった。干潟も
多様な生き物がいて出会うのも楽しかったが、やはり海浜地帯、子どもたちには
「いつでも、どこでも」とは言えない点があった。その点、こんどは身近な公園や
神社の土の中が〈探検〉の場となった。身近かなので子どもたちもすぐに足元の穴
探しに出かけることができる。
 体裁は、シリーズ1と同じく「なんじゃ なんじゃ このあな なんじゃ」で始まる。
折り込みのふたを開けると土の中で生きる昆虫などが出る。アリに始まってハンミョ
ウやコガネムシ、クモなども出てくる。つづいてちょっとでかい土盛りの穴が出る。
ちょっと大きな土の山なので昆虫ではなさそうだ。なんだろう。なんと哺乳類のモグ
ラだった。そういえば最近は都市公園ではモグラはほとんど見なくなった。お目当て
のミミズが少なくなったからか。土が固いからか。モグラの穴は、土の中では横にも
長く連なっている。大きな土盛りが周辺にいくつもあるとモグラの仕業だ。ミミズの
土盛りはうんと小さい。いくら広場でも穴の主を見つけるには根気がいる。
 最後の方に「なんじゃ なんじゃ あなが ないんじゃ」とある。でも、穴が開いて
ないだけで土の中はカブトムシの幼虫やミミズなどで生き物いっぱい。ああ安心。
じつはこの本、「生態系と生物多様性」がコンセプトとして掲げられている。地下で
生き物の棲み家が多いという事はそれだけ土が柔らかで生き物がたくさんいるという
こと。生き物が多いという事はわたしたち人間生活も豊かになってくる。ふだんなにげ
なく踏んでいる土の中も生物の棲み家なのだと子どもたちが感じてくれるといいな。
                             2022年5月 1,500円 
               「新刊紹介8月」