私好みの新刊 2023年02月

『富士山はいつ噴火するのか?』 萬年一剛/著 ちくまプリマー新書 筑摩書房
 この本は一般書であるが、地学関係の本としては非常に読みやすく、中・高校生 
でも読めるのではと思い取り上げてみた。富士山噴火予言した本は近年たくさん出
されている。かつて、かこさとしも絵本にしていた。富士山は、宝永噴火以来過去
300年間噴火していないしので、一般には近い噴火が予想されている。それにたい
して著者は、「いつ(噴火が)おきてもおかしくない」ってほんとう? と帯で疑問を
投げかけている。著者は、地元の温泉地学研究所に長年勤めている火山学者である。
富士山噴火を恐れる前にもう一度富士山を見直そうと提案している。
 まず、「富士山は特別な火山なのか?」では蔵王などと比べてみると、特別な山
と考えている。富士山は伊豆小笠原原孤がぐいぐいと押している場所で力がかかっ
いて、しかもマグマだまりは地下20kmと深い。他の火山とだいぶ様子が違う。
また地震と噴火の関係性についても、よく南海トラフ地震等とも関連づけられるが
「念のため気をつけましょう」程度の関連性しかないらしい。富士山は富士山とし
て個別に見た方が良いと説く。
 さて、感心ごとは、次の富士山噴火はいつ起きるのかである。ここで著者はしし
おどしの例を持ってくる。お寺などによく設置されているししおどし、水が満杯に
なると竹が傾いて一度に水が流れ出るしくみである。その水に著者はマグマを当て
はめる。ししおどしの周期もいくらか複雑に運動する例を挙げた上で、著者なりの
ダイアグラムを作成した。それによると巷の予想とはかなり違って「今から最大で
300年近く噴火がなくても不思議ではない」という微妙な表現をしている。
 とはいえ、噴火時期には不確実性が伴うので富士山噴火に備えてどのような取り
組みが必要なのか後半に述べている。溶岩流の問題、ハザードマップの見方、予想
される火口の位置、火山灰の問題など多様にある。   2022年7月 924 円
 
『草原をのぞいてみればカヤネズミ』 福田幸広/写真 ゆうきえつこ/文 
                 小学館の図鑑NEOの科学絵本  小学館
 ふだんなかなかお目にかかれない里山の野生動物にカヤネズミがいる。カヤネズ
ミは川原などに生えている葦原などに生息している。体長は6cmほどの小さなねず
みで毛は赤っぽくてとてもかわいらしい。尾は体長より長くしばしばその尾をたく
みに使って生活している。わたしもカヤネズミの生息調査をしたことはあるが昼間
の個体写真をとるのがやっとのことだった。
 そのネズミを写真家の福田さんはたくみなカメラ技術で出産から子育てまで親子
の姿を見事にとらえている。たっぷりとカヤネズミの愛らしさが堪能できる本である。
 まず帯では3匹の子ネズミがお出迎え、目がパッチリで鼻をひくひくさせている
(ように見える)。見返しではススキの大草原が現れる。こういう草原にカヤネズミ
は棲んでいる。まず1ページ目に現れたのは、少し白っぽいカヤネズミ、枯草の軸に
しがみついている。よくも落ちないなとよく見ると長い尻尾をしっかりと茎に巻き付
かせている。次は草むらの中、ススキの枝を丸く巻き上げた丸いボールのような玉が
現れる。「これは何でしょう」と問いかける。鳥の巣であれば上が大きく開いている。
まん丸だ。次に小さなカヤネズミが現れる。これぞ「ぼくのおうちだよ」とさけんで
いるみたい。次に舞台は夜にうつる。夜になるとカヤネズミは活発に動く。鳥などの
天敵をのがれて植物の種などを食べる。アップでなかなかりりしい姿に写っている。
さあ、こんどは巣作りだ。葉っぱの先を口にくわえて器用にまん丸の巣を作っていく。
出入口は横にある。外敵をのがれるために緊急避難として呼びに巣をつくっている。
以後、出産から子育て、あたらしい命の誕生、冬の生活なまで、見事な写真が続く。
特殊機材の駆使が功を奏している。          2022年 7月 1,300円

                    新刊紹介2月