私好みの新刊 20239

『僕とアンモナイトの1億年冒険記』 相場大佑著  イートン・プレス

  大学3年生になった著者は進路について悩んだ時、子どもの頃読んだ恐竜関係の本を

見て古生物関連の研究がしたいと思うようになった。たまたま大学で見たアンモナイト

がきっかけでアンモナイトの研究を始めた。大学卒業後、幸運にも化石を主とした博物

館である三笠博物館(三笠市)に就職した。当博物館はわたしも何度か訪れたが、ホール

には直径1mもあるようなアンモナイト化石がいくつも並べられていたのは圧巻だった。

そこで著者は8年間勤めあげた。化石に興味を持ちアンモナイト研究に半生を打ち込ん

だ著者の生きざまを綴った本である。文字は小さいが古生物に興味のある中学生なら十

分に読める。

 初めに著者がアンモナイト研究に陥ったきっかけなどがくわしく書いている。アンモ

ナイトには縫合線という不思議な模様があるがその縫合線の研究をきっかけにアンモナ

イトの始めた。しばらくは、北海道の地でアンモナイト化石の収集にあけくれる。アン

モナイト化石はだいたいノジュールの塊になっているのでそのノジュールを取り出さない

といけない。時には、大物もあり崖から取り出すのは重労働である。そのあと持ち帰った

化石のクリーニングが待っている。アンモナイトにはもともとはよく見るような巻いた貝

ではなかった。元は細長い筒状だったが進化の過程で巻貝のようになっていく。その途中

の折れ曲がったような化石も出てくる。これらは異常巻きアンモナイトと呼ばれている。

著者はその異常巻きアンモナイトの研究を始めた。新種を発見した過程とか化石の進化系

統の研究など、博士論文を出す過程がくわしく語られている。

また、三笠博物館での展示の工夫なども語られている。最後に著者は「古生物学を研究

するということ」と題して、化石などの研究が一つの「冒険の旅」と説いて若い人に語り

継いでいる。三笠博物館を去った著者の冒険はまだまだ続く。  

     20231月 1500

 

『生き物たちが先生だ』 針山孝彦/著  くもん出版

 この本のテーマである、生物の生きる機能を細かく調べて生活用品に応用することは以

前から行われていた。『ヤモリの指から不思議なテープ』などの本が発刊されていた。た

だ、当時は光学顕微鏡で見た生物の組織がもとだった。前著から十数年たった現在は電子

顕微鏡を使った世界である。電子顕微鏡なら光学顕微鏡より一段と生物の組織が鮮明に写

る。以前の本と似た内容もある。

 初めに電子顕微鏡(電顕)について解説がある。電顕では鏡内に電子を飛ばすので空気は

邪魔になる。空気を除くと生物の生きたままの観察は難しくなる。ところが空気がないの

に生きたままの幼虫がいた。ショウジョウバエの幼虫だ。体の表面はある種のねばねばで

覆われていた。このねばねばの発見で多くの生き物を生きたまま観察できるようになった

とのことである。植物の花びらの表面も生きたまま観察できるようになった。次に〈ひっ

つきむし〉からファスナーの話や〈ハス〉葉から撥水幕の話もあるがこれは以前から分か

っていた。しかし、電顕のおかげでカップのふたなどにも利用されるようになったとか。

次にタマムシの羽根の色の話になる。これも以前の本にも出ているが羽根の幕が何重に

も張られていて起きる構造的な色の説明がある。電顕によってより羽根の構造が鮮明にな

った。この仕組みは、装飾品や自動車の塗装にも利用されているという。次は海岸の岩間

にいるフナムシの話。フナムシは水に落ちないで水を飲めているのはフナムシの足の構造

にあることが分かったという。足を水面につけるだけで水を吸い上げる構造をしていた。

あとヤモリの足から滑らない手袋が生まれた話などがあるが大まかのことは以前の本に

も出ていた。

最後に著者は、生き物に学びながらより省エネを工夫し地球環境を守っていこうと呼び

かけている。                     20233月 1,540

             新刊案内9