私好みの新刊 2023年10月
『じんがさはむし』 
甲虫の仲間で大きさは1cmにも満たない小さな昆虫がいる。ハムシの仲間だ。
探せばわりによくいる虫だが、普通は見逃しやすい虫である。著者の吉谷さん
は以前からよく昆虫類の撮影をされてきたベテランカメラマンである。その吉
谷さんが小さな小さな虫に挑戦された。同封されている解説文によると、ジン
ガサハムシはヒルガオを植生とし金色に輝く昆虫とある。ヒルガオの葉で穴の
開いている葉を裏返すと発見できるらしい。あまり小さい(9mmほど)ので、今
まで見ていても「心ここにあらざれば、見れども見えず」かも。本文を見てみ
よう。
 初めに出てくる場面はヒルガオの穴の開いた葉っぱ。穴の開いた葉っぱをひ
っくり返すと「きんぴかの むしが いる!」。この小さな金色の虫がジンガサ
ハムシという。ジンガサハムシは図鑑でもあまりのっていない。ハムシ類は大き
いのは10mm近くあるが小さいのは数ミリ程度。これではよほど目的意識を持っ
て見ないと目につきにくい。とにかくこんな小さな生き物で「きんぴか」という
のは珍しい。次に、ジンガサハムシを横から写した絵が出る。ジンガサハムシを
横から見た絵をみると昔の〈じんがさ〉によくにていることからこの名がついた
という。なるほど。次はジンガサハムシを裏(腹がわ)から見た絵、6本足の立派
な昆虫である。背中にある〈じんがさ〉が透き通って見える。アリがやってきて
も、笠で身を隠せば、絵の通りアリはあきらめて去っていく。次に卵から幼虫の
絵が続く。このあたりの絵はマクロで撮った写真を元にされたという。1令幼虫
といえども立派な反り返った尾が見える。しかも脱皮を繰り返すごとに脱皮がら
を身に着けていくおもしろい習性がある。このようにして表紙ある成虫ジンガサ
ハムシは成長していく。なかなか見慣れない光景を淡い絵で描いている。   
                           2023年6月  400円

『牧野富太郎の植物学』 田中伸幸/著  NHK出版新書                        
 朝ドラの「まんたろう」は牧野富太郎の人間ドラマであるが、ここで取り上げた
本はくわしく牧野の研究人生と植物学に焦点を当てて書かれている。大衆向けに書
かかれた本であるが、植物学に関心のある中・高校生なら読めるのではと取り上げ
てみた。
 牧野は子どもの時から植物に興味をもった。環境がとてもいい地元土佐・佐川周
辺で植物採集をやり出した。牧野はだんだん植物学に目覚めていく。牧野の時代は
日本で植物学が大きく進展した時代で、小学校を中退した牧野は、名教館などで学
ぶ。また、伊藤圭介、宇田川榕菴などからも植物学を学んだ。本では『植物研究雑
誌』等読みふけるなか植物学の知識を広げていく。やがて顕微鏡などを求めて東京
に出向く。当時東京大学植物学教室にいた教授に認められるほど実力を身に着けた
牧野は東京大学への出入りを許される。大学ではたくさんの標本に出あう。また、
牧野は北海道の利尻山から九州屋久島まで出向き植物採集をしてさらに多くの標本
を集めた。また、「ヤッコソウ」など新種発見もする。タケ・ササ類の採集も多く、
その一つに妻・寿衛子の名をとって「スエコザサ」と命名した。その後「植物学雑
誌」等を発刊し名を上げるが、さらに『牧野日本植物図鑑』を刊行するまでになる。
精緻な植物図を描くのが得意だった。晩年は各地の観察会などに出かけ多くの植物
愛好家と交流し多彩な人柄もあって全国に牧野ファンが生まれた。同郷の寺田寅彦
とも交流があり幅広い人脈を築いた。
 この本は、植物家としての牧野富太郎の一生が読み取れる。高知の田舎に生まれ
た富太郎が塾に通い植物学や語学も身に着け、学術誌に論文まで発表する〈学者〉
に変身していく経緯がよく伝わってくる。    2023年3月  930円

                 新刊紹介10月