私好みの新刊 202312

『「植物」をやめた植物たち』 たくさんのふしぎ9月号 福音館書店

  「植物をやめた植物たち」というタイトルがおもしろい。「一番大事なあ

ることをしていない」とも書く。どういう植物だろうと興味がそそられて最

初のページを見ると「ギンリョウソウ」(著者が発見した種とか)がでてくる。

光合成をしない植物を言っているのかと思いつく。次のページにはたくさん

の「光合成をやめた植物」がならぶ。こんなにもあったのかと思い知らされ

る。しかも、拡大写真でもあるがとてもカラフルなものもある。キンランは

光合成を半分やめた植物であるらしい。ページをくると再び「光合成をやめ

た植物」が出る。とてもカラフルだ。ふだんあまり見かけないが1000種もあ

るという。「光合成をやめた植物」はふだん目につきにくいので今でも新種

発見が多いという。「ご先祖様は緑色だった」という項もある。なんと白

いギンリョウソウは赤いツバキが元と言うから驚き。

さて「光合成をやめた植物」のなぞ解きが始まる。植物の根に目をやると

キノコ類の菌糸が根にはびこり「土の中から窒素、リン、カリウムなどの肥

料成分や水を集めて、植物に提供しているのです。」とある。「寄生と共生」

という言葉も出てくる。ふつうは「寄生と共生」を保っているがそうでない

植物もあるという。植物はふつうは菌類と共生関係にあるが、しかし、光合

成をやめた植物はこの菌類からの報酬を一方的に受けるように進化した植物

もあるという。また、菌類には森の落ち葉や倒木を分解して生きているも

もいる。光合成をやめた植物にも小さな種があるという。それらを食べる昆

虫や動物も特定されている。「光合成をやめた植物が存在するということは

そこが豊かな森であることを示すしょうこなのです。」と結ぶ。

                             20239月 700

 

『黒部の谷の小さな山小屋』 星野秀樹/写真・文  アリス館

  観光地で有名な黒部ダムから、黒部峡谷を歩いて北上すると小さな山小屋

「阿素原温泉小屋」にたどり着く。ここが「黒部の谷の小さな山小屋」である。

1949年にできたという。黒部の山奥は冬になると深い雪に閉ざされる。ふつう

の山小屋ではその雪につぶされる可能性がある。そこで考えられたのは、毎年

秋に小屋をこわして次の夏が来る前にまた建てるという。よくもこんな発想に

たどり着いたものだと感心する。また、登山道も雪の重みで崩れることもしば

しば、それを補修している人もいる。この本ではこんな過酷な奥深い森のよう

すが美しい写真で紹介されている。あわせて山の人々の仕事ぶりが美しい写真

で堪能できる。

 黒部峡谷に入るにはいくつかのルートはある。一つは関電トンネルを通るト

ロッコ列車がある。その写真がまず飛び込んでくる。緑濃い森の中にトロッコ

が行く。列車を降りるといよいよ険しい山道だ。トンネルを越えて山道を進む

と、森の中に小さな山小屋が見えてくる。青い屋根のプレハブ風だ。このプレ

ハブに意味がある。組み立て、取り壊しが何度もできるからだ。プレハブでも

土台さえしっかりしておれば鉄骨にかすがいをかませ壁板や窓枠を入れるとか

なりの強度は保たれる。6月、いよいよ組み立てが始まる。ページをくると組

み立てのようすが細かく紹介されている。トンネルにしまっていた機材を引っ

張り出して、次々と7,8人の手によって手際よく組み立てられていく。次ペー

ジでは壁板や窓枠が次々と鉄骨柱に入れられていく。3日目間かかってやっと

完成だ。やがて夏、8月。深い峡谷の夏のようすが写し出される。ほっとひと

息つく間もなく、山男たちは山道の補修にはげむ。おかげで夏にはたくさんの

登山者たちの賑わいがある。やがて秋が来る。秋の渓谷も美しい。11月には山

小屋の取り壊しが始まる。黒部の峡谷美を十分に堪能させてくれる本である。  

                       20235月 1,600

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