私好みの新刊 2024年2月
『うまれたよ! カブトガニ』 ゆうきえつこ/文 福田幸広/写真  岩崎書店 
 このの本は「よみきかせ いきもの しゃしんえほん」シリーズで大判でよみきか
せにはちょうどいい版である。今までにすでに50巻近くでている。今回取り上げた
本は「カブトガニ」。カブトガニというと笠岡市海岸が有名でカブトガニ博物館も
ある。写真を見る限り浜辺で写した写真なので笠岡海岸かなと思ったが近くの瀬戸
内海岸かもしれない。いずれにしろ、カブトガニは古生代の三葉虫から進化した生
き物ともいわれる大変貴重な生き物で、日本では瀬戸内と九州海岸の一部にしか生息
していないという。この本はそのカブトガニが浜辺で成長していく過程を見事な写真
でとらえている。
 はじめに広い海岸の写真がでる。「うみの みずが すなはまで いっぱいに なる
ひです。」と書かれている。カブトガニは夏になると大潮の満潮時、浜が水いっぱいに
なる時期をえらんで砂浜にやってくる。大きなカブトガニのカップルの写真が出る。
目がよく発達しているのがわかる。次の写真、メスは砂を掘り出して砂の中に卵を産ん
でいく。同時に空気の泡が浮かんでいく。オスがすぐそのあと精子をかけるらしい。水
が引いた砂浜が出る。砂には小さな3mmほどの卵がかたまって産み付けられている。卵
は1か所に300個もあるとか。つがいは移動して次の穴をつくってまた卵を産む。やが
て6週間も経つと卵は次々と孵化する。孵化前後は卵も大きくなりやがて殻から足が出
る。砂の中で成長したあかちゃんは次の大潮の時に這いだしたあと、また砂にもぐり冬
をこす。やっと6月になると、殻(内卵膜)がわれて泥の海底を這いだすという。多くの
写真は迫力満点である。「きょうりゅうが いたときから すがたが かわらない「い
きたかせき」と いわれる へんてこな いきもの。」と結んでいる。  
                           2023年7月 2400円

『いろいろ色のはじまり』田中陵二/文・写真(たくさんのふしぎ10月) 福音館書店
 題名の「いろいろ色のはじまり」と読んで、どんなことを想像されるだろうか。てっ
きり、光が作り出す色かなと思いきや鉱物や草木の色の話しである。人類は古くから鉱物
や草木を利用して豊かな色彩のある生活を工夫してきた。この本は生活に色を求めてきた
人類の知恵と工夫の物語である。
 ページをくると最初に出てくる絵はいくつかの動植物や鉱物。「人はいろいろな色を
まずは石からとりました。」で始まる。次ページ、岩手の銅の鉱山から「銅をふくんだ孔
雀石と黄銅鉱」を取ってくだく話。乳鉢でこすったきれいな緑色や青色と、動物から取っ
た膠と混ぜて、数万年も前から人々は洞窟に絵を描いてきたという。孔雀石はくだいた粒
の大きさによって色は違って見える。江戸時代の人間の工夫も紹介されている。美しい「尾
形光琳作 燕子花(かきつばた)図」が出る。これは藍(らん)銅鉱(どうこう)と砂金を使った江戸時代作のふすま絵。青と
緑の色を見事にかもし出している。次は土の鉄さびを使った赤や黄色の色。今でも使って
いるベンガラで江戸時代から工夫されてきた。朱の色を作る辰砂(しんしゃ)の話も出る。次は、青い
絵具をつくってきたアフガニスタンの話、ラピス・ラズリという鉱物から採るという。目
の覚めるような青色だ。次は孔雀石から濃い緑色を求めてきた人の話。猛毒のヒ素が入っ
ていたりした失敗の歴史も紹介されている。「顔料」と「染料」の話をはさんで植物から
色を作る藍染めの話へ。ペルーでは起元4000年前の遺跡から藍染が見つかったという。
次はある種の貝がらからつくる貝紫、紅花から採作る赤、オオキンケイギク(今は特定外
来植物)から作る黄色の話等が書かれている。ミョウバンの役割にもふれられている。草
の根からもしぶ紫とか茶色に染められる話、アカネからとる赤い染料の話など、いろいろ
な草木染の話もある。最後は「いま」の話へ。石炭や石油からつくる合成染料・合成顔料
の話や、光を別の色にかえたり、電気信号に変えたりできる「機能性色素」の研究話もあ
る。著者はそうした「色づくり」の化学者・技術者でもある。                       
                           2023年10月1日 770円
              新刊案内2月