私好みの新刊 2024年9月

『カニのダンス』ちいさなかがくのとも6月 越智典子/ぶん 伊藤知紗/え 福音館書店  
ダンスをするカニがあるという低学年向きの楽しいお話の本。汽水域の干潟のカニの多く
は爪を大きく動かすことはよく知られている。その動きをユーモラスに語っている。小さい
子どもも楽しめる。まず、たくさんのカニが爪を立てている干潟の絵が出る。あっちにもこ
っちにも。次ページではチゴガニがアップされている。白い〈両手〉を広げているよう。
〈手〉を前に出したり上げたり下げたりしている図、「いっしょに おどりましょう。」と
ある。こんどはハクセンシオマネキが登場する。こちらは〈片手〉が大きいカニ、まるで手
招きをしているよう。次ページではその動きがよりリズミカルに「こっちこーい」と手招き
する絵。次はヤマトオサガニ。こちらはちょっとおっとりおどりっている。次はコメツキガ
ニ、こんどは砂粒を口に入れてはポイ。砂つぶに着いた海藻や有機物を食べてるらしい。両
方のハサミを広げたり上に上げたり、また砂をつまむ、この動きもダンス。それそれのカニ
がせわしなく手を動かしていると、突然黒い影、いちもくさんにカニたちは巣穴へ。お見事。
黒い影が去るとまた砂から出てきてダンス。この本は干潟のカニたちの動きがダンスとして
ユーモラスに描かれている。
 このシオマネキについては以前に武田正倫/著 金尾恵子/絵『大きなはさみのなぞ』(文研出版)
が出ていた。こちらは小学校高学年ぐらいから読める科学読み物である。それによると白い
扇のような〈手〉で招いているハクセンシオマネキは「白扇潮まねき」とも言うらしい。し
かも〈手招き〉しているのは、たんにダンスではなくメスを呼び込むためのディスプレイら
しい。カニのなかでも、シオマネキは陸上生活も長くアカテガニに似て進化しているカニら
しい。ふだんあまり目につかないが、ふしぎなカニの習性もいろいろあるみたい。  
                                 2024年6月1 日  400円

『ニッポンの氷河時代』 大阪市立自然史博物館/監修  河出書房新社
ことしも暑さ厳しい中だが今は〈氷河時代〉なのである。北極、南極等の氷河がある時代
である。話はややこしが、地球はその氷河時代の中でも氷期と間氷期を繰り替ええしている。
今は氷河時代の中の間氷期(暖期)にあたっている。地球温暖化が叫ばれる中、地球はやがて
氷期に向かっていくと思われるが人間の活動がどの程度影響を与えるか定かでない。
  その氷河時代について一冊にまとめられた本が出た。大阪市立自然史博物館が2016年に
特別展として展示した資料を補足してまとめられた。こうした地層は全国的なものだが、大阪
は産業の活発な場所でボーリングなど各所で掘られ各地層の層序や化石資料が豊富にわかり各
年代の寒暖の程度まで詳細に研究されている。プロローグでは地球は氷河時代を繰り返してき
たことを記している。案外身近に近年の氷河時代もみることができる。高山に残る氷河地形も
紹介している。暖かくなと氷河が解け海水面は上がって海底の堆積物は増える。過去の氷河堆
積物から当時の気候もわかるようになった。水には重い酸素の水と軽い酸素の水があり、海水
中にとけている軽い酸素の水は蒸発しやすいので氷河堆積物には軽い酸素の水はとりこまれや
すく海水は重い酸素の水が多くなる。こうしたことから当時の気候は推測できる。
  くわしく調べられた大阪平野の地層を見ると過去300万年間の地球の状況がよくわかる。
地層の合間に、何度も海生の粘土がはさまれていたり火山灰が降り積もった年代もあったりで
過去には寒期暖期を何度も繰り返してきたことが詳細に分かっている。その様子が細かく述べ
られている。植物景観の各時代の話も興味深い。過去数百万年間の地球の姿が詳細に浮かび上
がる貴重な本である。                       2023年09月20日  1,650円

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