わたし好みの新刊 1月
・「深海問答」川口慎介著 エクスナレッジ 2,200円
著者は深海調査船に700回以乗船してきた深海研究の専門家。「深海問答」
というタイトルが示すように、いろいろな海の問題を提起し答えを書いている。
文体もやさしく高校生ぐらい以上なら親しみやすく読める。各タイトルの初
めに「人類は海とどのように付き合ってきたのか?」「人体は深海に耐えられ
るのか?」「海底熱水活動域はどんなところなのか?」といった問いかけがある。
そして著者の考えや体験してきたことを述べている。
最初は深海の記事が多い。深海は普通の研究者は近寄りがたいだけに、
「深海底はふつうの場所?」「有人潜水調査船〈しんかい6500〉は何者か?」
「深海にある液体は水だけか?」「微生物は海底下のどこまでいるか?」など、
深海にまつわる話がいろいろと出てきて興味深い。「深海底はふつうの場所
か?」では、「現在の地球最高峰チョモランマは標高8848メートルだが、海
には水深が9000メートルより深い海溝が・・」など書かれている。その他
「潜ることは海の科学なのか?」では、「資料の採取」が大切だとし「調査船
が海へ出ていくいちばん大きな目的はサンプリングにある。」と書いている。
いろいろな資料を化学分析するためである。「しかしサンプリングによって
海からモノを持ち帰ろうとすると、海にあったものはそのままの状態ではな
くなってしまう。・・」という難題もある。これにも、いろいろ方策が述べ
られている。その他100以上の問いかけがあり「生命の起源」「海底の資源」
「海での気候工学」にいたるまで、幅広く海について語っている。
最後に「海洋立国」日本を支える海洋人材が増えることを願ってこの本を閉
2024年8月17日
・「となりにすんでいるクマのこと」 菊谷詩子/文・絵 たくさんのふしぎ11月
福音館書店
著者は幼少期にケニアとタンザニアで過ごし動物学者をめざしたがサイエン
スイラストレーションを学んだ特異な人。それだけにこの本のテーマはお手の
もの。近年のツキノワグマとヒトとのつきあい方についてくわしく書かれている。
文体もやさしく読みやすい。
まず裏表紙に、もし「クマに出会ったらどうする?」の注意点が書かれている。
山林地帯に行く人はまず知っておこう。さて、話は近年軽井沢でクマが別荘地に
出没するようになったことから始まる。まず初めに、よくやって来るクマ「コノ
カとのであい」のお話がある。クマの発信器信号が鳴る。「また空振りかと思った
そのとき、黒い影がわずかに動くのがみえました。・・」いきづまる描写である
。ページをくると軽井沢での様子が飛び込んでくる。ミズナラの樹木の枝になに
やらカラスの巣のような木材の塊、これこそクマが造った「クマだな」である。
くまが近くにいることが察知できる。その他、クマの冬眠穴、誕生、子育ての
様子などクマの生活のようすもくわしく書かれている。
そのあと軽井沢のクマチームの活動について書かれている。軽井沢では安易に
クマを射殺しないですむように、さまざまな活動をしているチームである。捕ら
まえた熊に発信器を着け固体管理をしたり、丈夫な柵を作ったり、クマには特別
にほえるベアドックの話など、クマが人里の近くに来ないような取り組みがいく
つも紹介されている。その他、すでに発信器をつけたクマ個々についても大切に
見守っているようすが書かれているページもある。これらは楽しい読み物になっ
ている。 2024年11月
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