【論文】一部抜粋
 
    「科学読物」の類型化 
          「知識の本」とその現状        西村寿雄
 
 今回は、知識の本について概要を述べる。
 
2.知識の本
 最後につけた「自然・社会・技術等の本」リストには、戦後から1999年までに
発行されている科学読み物の中から選んだ資料を入れている。
 先ほど、「科学読み物」の中でも、とりわけ「科学の本」の大切さを説いたが、
いわゆる「知識の本」も、それなりに子どもたちの興味関心を引くものも多い。し
かし、個別的な事物に関する内容の本は、領域も多様で発行点数も多く、私一個人
の目で選択すると必然的に偏りが生じてくる。そのため、ここでは「知識の本」で
ありながら、全体的総合的な内容の本、各々の背景が読みとれる本に焦点をあてて
特色ある本を選んでみた。
 ここで、改めて記述しておくが、「科学読み物」といっても必ずしも自然の読み
物とは限らないということである。もともと、「科学」という言葉も自然領域のみ
を指す言葉ではない。ここでも広く万物の事象や関係を解き明かしている本を「科
学読み物」としている。したがって、下記に記載したリストには社会の領域の本も
含まれている。社会の成り立ちなどを興味深く取り上げた本もある。
 リストに取り上げた本のいくつかについて概要を紹介する。    
 最初にあげた『大昔の狩人の洞穴』は、フランスで発見された氷河時代の洞穴探
検物語である。といっても、たんなるフィクションではなく、洞穴に克明に描かれ
た各々の絵から当時のヒトの生活が徐々に浮き彫りにされていく。人類学の基本が
学べる本である。今は、絶版で図書館で見るしか方法がない。
 つぎの『かわ』は、加古里子のいう「科学の本の総合性」を意識した代表作である。
絵本に類する本でありながら、川の姿を上流から下流まで一続きに描き、川の機能
や背景、そこに働く人々などを視覚的に見せている。
 『ふくろう』は宮崎学の初期の本で、本格的な写真絵本のきっかけをつくった本
である。題名だけを見ると、たんなるふくろうの生態写真の本とも受け取れるが、
フクロウの猛禽類としての精悍さと親としての優しさを見事に描き出し、野生動物
への目を開かせてくれる本である。
 『地図の話』は、昭和の初めに出版された「少国民のために」(岩波書店)の復刻
版である。地図の役割から、地図の歴史、地図の見方など歴史的に学べる。「孤立
してとらえられた現象が普遍的な法則のもとに一様に支配されているということ、
かかる法則が長い歴史を通じてしだいに発見されてきたことなどを明らかにした」
と解説にある。人間の知恵の長い歴史が読みとれる。
 『いっぽんの鉛筆のむこうに』は、知識の総合化を目指して出版された福音館の
「たくさんのふしぎ」の第1号である。だれにとっても身近な鉛筆1本に目を向け
一つのモノが世界中のたくさんの人々の労働に支えられて作られていることが読み
とれる。
 「〈もの〉は結局、〈ひと〉との関係において、〈もの〉としての意味を持つのだから
  〈もの〉とはなにかが、多様に感じられるような材料を提供することは意味があ
  るのではないか。」
と編集に携わった松井直は書いている。(2)
 『植物たちの富士登山』では、溶岩や砂礫に覆われたきびしい自然環境にあって
土壌をも改変しながら生き続ける植物の知られざる事実に気づかせてくれる。植物
の強さ、自然のつり合い、緑の復元についても考えさせられる本である。
『宇宙の「超」ひみつを知ろう』は、純然たる読み物であるがついつい誘い込ま
れて読んでいく。不思議な文体の本だ。原著者の目のつけどころの良さと、流ちょ
うな訳者の連携が見事に効果を発揮している。内容的にも、宇宙を探検しているよ
うな感覚で宇宙の全体像を知ることが出来る。
『ほら、きのこが…』、これは最近ハードカバー化して再販されている。「自然を
感じる本」に入れてもいい内容の写真本であるが、キノコの基本的な生態と様々な
キノコの姿が楽しんで見られる。「ほら、きのこが…」という題名にも見られるよ
うに、読者に誘いかける文体もユニークだ。
 『ひとしずくの水』は、アメリカのフリーカメラマンの作品だが、実に美しく水
のさまざまな姿や情景を映し出している。「動きまわる水の分子」の写真も見事、
「水のような液体の中では、分子は、たがいに押したり引いたり、くつついたりは
なれたりしながら、いつも動きまわっています。……」と的確な話が入る。
 
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