人間と自然の災害の
  かかわりがわかる本

 谷  賢 一
 (啓明小学校)

  先日の地震による北海道の奥尻島の津波の被害は、信じられない
くらいひどいものだったようです。

  多くの犠牲者が出て、あらためて自然の猛威の恐ろしさを感じて
しまいます。

  九州の普賢岳の被害が記憶にあたらしい時期に、また、大きな被
害ですから、なおさらです。
(この文章は、以前に書いたものなの
で、その時点での表現になっています。)、

 大昔から、人々は、様々な自然の災害とたたかってきました。
 小学校では、社会科の授業で、主に取り上げている内容です。
 しかし、現実の教育現場では、自然の災害として取り上げているの
は、台風が中心になっています。

 もちろん、台風の被害も軽視できないわけですが、昔から人々が、
自然の驚異とどのようにたたかってきたのかを学習することは、環境
問題を考えるためにも、大切な知識ではないかと思うのです。

 以下に紹介する本は、かなり以前に出た本ですが、自然の力を知る
資料としては、役に立つ本です。

「津波ものがたり」
 (山下文男著、童心社)は、実際にあった津波の話と、津波がどうしておき
るのかを、子どもにわかるように書いてあります。特に、著者自身が経験し
た津波だけに、津波の恐ろしさや人々の悲しみが伝わってきます。

 奥尻島の被害があれほど報道されても、津波の恐ろしさが実感とし
て伝わらない人がけっこう多いようです。

 最近の波のりなんかのイメージも大きく影響しているのかもしれま
せん。

 もっとも、戦前に、三陸海岸沖で三角波がたって、海軍の軍艦が持
ち上げられ、まっぷたつに折れてしまったという話も聞くと、やっぱ
り波といっても、すごい力なんだなと思ってしまいます。

 社会の授業で台風を取り上げることがありますので、その時に、一
緒に取り上げると、学年内での矛盾などもおきなくていいと思います。

「動く砂山」
 (鈴木喜代春作、あすなろ書房)は、副題の「能代の砂防林物語」というこ
とからも想像できるように、秋田県の能代地方と砂防林の話です。
 能代地方は、今でこそ大きな街になっていますが、昔は、海岸から
吹き寄せてくる砂で家が埋まってしまうことも多々あったようです。

 もし、そのままにしておいたら、能代の街は、砂で埋まってしまい、
今の時代まで存在しなかったとまでいわれています。

 自然の力に、人間の知恵でうまくかかわった例だといえます。
 ただ単に松の苗を植えれば、簡単に松林ができるというものではあ
りません。

 砂の中に、ゴミや落ち葉をいれ、よしずをはって砂どめをしておい
て、草をはやします。
 次に、成長の早いネムやグミの木を植え、それらが育ったところで、
塩風に強い黒松を植えたのだそうです。

 砂地への植林が単純なものではないということが、よくわかります。
 6年の理科の最後に、地球の環境の問題のひとつとして、砂漠の緑
化が出てきますが、そこで取り上げるとわかりやすいと思います。

 その他、川の治水の問題は、中学年を軸に登場します。
 自然の地形や川の特性をうまくつかまえて工夫した「信玄堤」など
の例を取り上げて、人間と川とのかかわりをわかりやすく説明した本
に、「川は生きている」(富山和子、講談社)があります。

 この本は、川の治水なんて、頑丈な堤防を作ればいいのではなくて、
じっさいはその逆なんだということを、とてもよく理解させてくれます。

 十数年前に読んだときは、大きな衝撃でした。
 私の自然感を大きくゆさぶりました。
 内容その物も、理科の川の学習や社会の治水の学習にも使えますが、
 自然にたいするものの見方を変えてくれますので、教師がまず読む
ことも、授業以前の問題として大切だと思います。
 この本は、自然と人間の三部作のひとつとして出たものです。
 他の2冊、「道は生きている」「森は生きている」も、
一読に値します。

 環境問題については、あまりにも分野がひろく、種々雑多な本が出
ていますので、別の機会に、取り上げたいと思います。