ベトナムの医療・ツーズー病院


ベトナム戦争の爪痕 奇形児の出生率1/100
 ベトナムの医療機関は公立病院。医帥はすべて公務員です。
医療設備は遅れており医薬品も不足しています。
政府の保険制度が整備されていないためか受診率は抵い。
そのために、ホーチミン市やハノイ市には外国人向けに大手保険会社の会員制病院やスウェーデンや
フランスの外資系病院が繁盛しています。
60人の企業の場合、年間2600ドル(約33万円)の会費で社員が会員制病院を使用できるそうです。
(ベトナムに限らず、「外国人からはカネをとれ」が基本なので医療費は高いので海外ではご注意を)
 今回、訪問した産婦人科総合病院のホーチミン市立
ツーズー病院(910人収容)は、ベトナム戦争の
枯れ葉剤の影響を受けたベトちゃん・ドクちゃんが入院
している病院です。
ター・ティ・チョン副院長、パム・ビェット・タン副院長が
多忙なところを病院を案内してくださり、長時間にわたる
懇談をする機会がありました。
ツーズー病院は治療以外に、1,予防、2,研究、
3,教育(大学医学部)、4,県病院の指導を行って
おり、保健所・研究所の機能も有しています。
特に、ベトナム戦争で使用された枯れ葉剤の研究は
熱心に進められています。

<枯れ葉剤による胎児の標本>
 枯れ葉剤によって奇形出産した胎児の標本が保存されている
研究室に案内されたときは、一瞬、息がつまり戦争の悲惨さ残酷さを
思い知らされました。
タ一副院長は「写真を撮ってください。
このことを日本でも訴えてください」と言われたことは、ベトナムの
人々の平和への強い願いと感じました。
 兄のベトちゃんは病室で寝たっきりの生活ですが、弟の
ドクちゃんは近くの学校に元気に通学しています。
病室に日本のパソコンが置いてあるので不思議に思い質問
すると、ドクちゃんが学校で習ったパソコンで作曲して兄に
聞かせているそうです。
ベト・ドク兄弟も既に16歳。
日本では障害者は福祉施設に入所できますが、ベトナムでは
福祉施設の整備が遅れておりベトちゃんのように多くの
障害者が病院で収容されています。
今後は福祉施設の整備が急務であり、各国からの支援が
望まれています。

<ツーズー病院のベトちゃん>

<両足をなくして生まれてきた赤ちゃん>
生涯を前を向いて力強く生きて欲しいと、
必死で念じました
 具体的に、年間の産科患者は34,399人。
そのうち分娩は30,949人ですが、異常分娩は
13,747人(44.42%)と大変高く、帝王切開は8,126人
(26.26%)と多い、母体死亡も12人に上っています。
そのなかで、奇形赤ちゃん(胎児)の出生率は、1/100
以上の比率です。
ベトナム戦争直後は1.5/100以上であったそうですが、
それでも同病院で年間300名を越える奇形赤ちゃんが
生まれています。
一日に一人の障害者が生まれる計算になります。
欧米が1/1000以上であることから10倍も高い原因は
枯れ葉剤(ダイオキシン)の影響です。
また、婦人科の患者15,674人のうち、623人(3/100)が
卵症(胞状奇胎=ぶどうご)でアジア地域の1/500と
比較しても高く、枯れ葉剤の影響と見られています。
戦後22年の今もベトナム戦争の影を多くの障害者が
背負っています。

 高度医療技術や機器が不足している現状から、我が大阪府には母体、胎児、新生児から乳幼児までの
一貫した医療を行っている全国で初の母子保健総合医療センターがあり、ツーズー病院との連携や医師の
交流ができると考えます。
夕一副院長の強い要望もあり両国の懸け橋に努めたいと思っています。

* ツーズー病院・・・ 1996年の統計では、年間予算は49,096,978,786ドン(約4億9000万円)
収容は910ベッドですが、実際は1,000人以上収容。
職員は1,168人そのうち150人が医師、看護婦400人、薬剤師15人、
その他603人。
南ベトナム地方の基幹病院で農村部や山岳地帯への自動車派遣隊が28チーム。
外来患者67,436人、入院患者62,771人。産科34,399人、婦人科15,674人。

患者と病院の知恵くらべ
 お金持ちから高く治療費を取るのがベトナムの病院の原則。
ツーズー病院の産科の平均入院日数は3日間、入院費用はお金持ちと低所得者と違うところがおもしろい。
お金持ちからは、クーラー、温水、テレビ付の病室で一日20ドル、手術費を30ドルの合計90ドルを
とりますが、低所得者は全部で30ドルです。
低所得者の判定は行政機関に地方判定委員会がおこないます。
ところが、お金持ちは不正証明書を入手して低所得者に成り済まします。
それでも、病院ではお金持ちと低所得者を見分けます。
看護婦がこっそりと患者の食事の中身を見て判定するそうです。
患者と病院の知恵くらべが面白い。

アルバイト公認の医師
 医師はすべて公務員。
公立病院の医師は午前7時30分から午前10時30分、午後12時30分から午後3時30分まで勤め、
月給は平均150ドル。
とても生活はやって行けないので夕方5時から7時頃まで自宅で診察、自己収入にします。
腕のよい医師は100人ぐらい患者をもっており、保険制度が整ってなく治療費はすべて現金で一回1ドル、
薬が2ドル。
月に平均400ドル以上の副収入になります。

資本主義的な診察システム
 日本では、病院は選べても医師を選ぶことはできません。
ツーズー病院では待ち会い室に医者のリストが掲げてあります。
そして、医師の値段表まで記載されています。
患者が値段と医師を選ぶことができます。
どこが社会主義の公立病院か理解に苦しむシステムです。
むしろ、資本主義社会よりも自由なシステムには驚きました。

家族計画
 増える人口抑制策として35歳以上で、子供2人であれば避妊手術は無料で行っています。
ツーズー病院だけで年問38,827件(96年)の誘導中絶を行ったそうです。


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