31 1996年8・9月合併号
アトランタ五輪の経済波及効果

大阪五輪誘致は関西復権の源 市民レベルの国際交流の機会

 アトランタ五輪開催によるの短期的経済効果(1991〜97年)は、ジョージア州政府商務省の調査によれば、
競技場(1億8900万ドル)、選手村(1億9400万ドル)、大学施設などの既存施設の改修増築(1億3000万ドル)
などプロジェクトに官民合わせて約51億4200万ドルの資本が投下されました。
そのため州内で19億1600万ドルの収入増加、約7万7000人の雇用を創出、法人・個人所得税や
小売消費税で1億7600億円の歳入増加見込。
アトランタスポーツ評議会では経済波及効果を、151億ドル((約1兆6300億円)とも計算しています。
 大会運営の総予算は総額17億ドルにのぼり、TV放送権料34%、民間企業からの協賛金40%、
入場料収入26%の比率でまかなわれました。
黒字であったものの大手スポンサー企業の影響力は増大、大会運営も多額の放送権料を支払ったTV局の
意向が強く商業主義に走り過ぎと批判が続出。
ところが、競技場周辺警備は民間ボランティアがほとんどで、軍隊・警察官の姿はあまり見かけず
「市民主催の五輪」ような印象でした。
競技場周辺のいたるところでは早朝から深夜までロックコンサートや様々なイベントが催され、"五輪万博"の
様相でした。
昨年、官主導で大阪で開かれたAPECの戒厳令のような雰囲気とは全く違いました。
世界の人々がスポーツを通じ一体になれる五輪は確実に市民レベルで国際交流できる絶好の機会です。
 アトランタを視察して思ったことは、五輪のような国際イベントは民間活力も大切ですが、行政の受け皿は
やはり不可欠で行政側の関与を義務づける必要があります。
2008年大阪五輪は、大阪市、大 阪府、財界と市民が一丸となる大きなイベントにすべきです。
 五輪の開催によって大阪の国際的な位置が決定づけられ、開催年だけでなく貿易、観光、国際会議、
スポーツ大会など数知れない中長期的な波及効果が期待できます。大阪での誘致は関西復権の大きな
カギです。
五輪誘致のための都市基盤づくりではなく、五輪を開く力と世界から見て魅力のある大阪にしなければ
なりません。
そのための新しい大阪のシンボルも必要です。
そして、大阪五輪で何を世界に発信するのかが大切ではないでしょうか。
 大阪五輪では、大阪城や通天閣、全ての美術館や博物館、地下鉄も無料開放し、京都、奈良にない
「大阪の庶民文化」を世界に発信できる最高のチャンスをつかむため誘致を成功させなければなりません。

五輪開催で国際都市の仲間入り
魅力あふれる都市づくりに成功 米国南東部最大のビジネス都市

アメリカ行政視察報告
 2008年の大阪オリンピック誘致を控えアトランタオリンピックの開催効果、運営の現状、阪神淡路大震災の
前年に起こったノースリッジ地震時の救援対策、そして障害者福祉対策、人種差別問題等を視察研究の
ため、7月19日から8月1日まで訪米しました。
数回にわたってご報告いたします。

アトランタ印象記
 大農園時代から南北戦争の荒廃を経て、世界有数のビジネス都市へと変ぼうしたアトランタ。
そして今回のオリンピック開催。
米国北部や西海岸とは違った歴史、文化を持つ南部拠点都市としての大きな魅力を今回の訪問で
感じました。
 アトランタはアメリカ独立初期の東部13州のひとつで1788年創立したジョージア州にあり、1864年、
南北戦争(1861〜65)の主戦場として、シャーマン将軍率いる北軍によりアトランタの建造物の9割を焼失した
古い歴史のある都市でありながら近代的な高層ビル群が実にうまく調和した都市です。
緑をふんだんに取り入れた昼間の都市景観から、夜は高層ビルをパッケージのようにイルミネーションした
摩天楼は全く違う景観で二つのイメージをもつ美しいデザイン都市です。

市民一丸で取り組む都市
 アトランタ市の人口は40万人で枚方市とほぼ同じ規模。
アメリカ全土でいえることですが、土地が高騰すると都市が拡散する傾向をたどります(メトロポリタン・
スタンデス・エリア)。
アトランタ市を中心に周辺20の郡(人口約333万人)をアトランタ(都市圏)といわれています。
 近年、米国南東部の最大のビジネス都市として急速に発展した原動力は、ハーツフィールド空港と
スポーツ振興です。
「第2のロスアンゼルス、デトロイトになるな!」を合言葉にスポーツ都市と国際都市をコンセプトに
行政も企業も市民も一丸となって取り組んできたようです。
アトランタ五輪だけでなく、このアトランタには日本の都市ではみあたらない市民が一つの目標に向かう
強い力を感じると共に「何でもできる都市」である印象を強く受けました。
その理由を知るのにはあまりに短い滞在が残念で仕方がありません。

世界2位の空港立地が原動力
 ハーツフィールド国際空港は、市中心部から十五分というアクセスの良さを誇り、年間の乗降客数が
ざっと5000万人で世界2位、売り上げも同4位で、世界20カ国200都市を毎日結んでいます。
道路網整備も完璧で、飛行機で2時間、トラックで2日あれば、全米市場の8割をカバーできる交通の要衝に
あります。
そのためジョージア州には世界41カ国から約1600社が進出。
国別では日本企業がトップで340社が進出、日本企業の進出件数ではカリフォルニア州に次いで多く、YKK、
ソニー、三菱、マキタ、松下電器など350事業所(工場施設は100箇所)で2万4000人もの人が雇用されて
います。
反対にジョージア州から日本に進出した企業は、コカ・コーラ、デルタ航空、ニュース専門放送のCNN、
アメリカンファミリー生命保険などはアトランタが本社の有力企業です。

プロスポーツ誘致が成功
 プロスポーツの誘致には積極的で野球のアトランタ・ブレーブス、アメリカンフットボールのアトランタ・
ファルコンズバスケットボールのアトランタ・ホークス、アイスホッケーのアトランタ・ナイツが本拠地に
しています。
その背景には第二の産業をスポーツと着目した発想がありました。
 1966年に大リーグのブレーブスを誘致してから、次々を誘致しファルコンズ、ホークスが軌道に乗った
85年には、商工会議所内にスポーツ評議会を発足さし、さまざまなスポーツ大会を開いてアトランタを
全米一のスポーツ都市に押し上げました。
94年にはNFKの全米一を決めるスーパーボールを新設のジョージア・ドームで開催。
1億6600万ドル(約180億円)の経済効果を上げたほどです。

各種調査でも高い評価
 全米の各種調査でも、2000年までに雇用を生む都市・1位(マグロウヒル社)、ビジネスに最適の都市・
2位(フォーチュン誌)、注目される南部の市場・1位(ウォールストリート・ジャーナル誌)と高い評価を得ている
アトランタです。 

アトランタメモ
しのぎやすかったアトランタ・・・訪問する前からアトランタは暑いと言われていましたが、湿気も少なく
心地よい風があり過ごしやすい気候でした。
むしろ大阪のムンムンする暑さこそ世界一ではないでしょうか。

白人は経済、黒人は政治 ・・・アトランタ市は「風と共に去りぬ」のイメージが強烈ですが、黒人市長が
3代続いており「政治は黒人が持ち、経済は白人が持つ」と他の都市と違って黒人と白人がうまく融和
しているように思えました。

ほほ笑みの南部気質・・・競技場や街角で目があうと必ず「ニッコリ」と微笑みます。
北部や西海岸では考えられません。
外からきた人を温かくもてなす「サザン・ホスピタリティー」と言われていることなのでしょうか。

親日的なジョージア州・・・人なつこい独特の雰囲気は関西人の気風に合うのかも知れません。
人件費、土地建物、公共料金といった物価が安く、住みやすいのも魅力です。
ジョージア州に住んでいる日本人は6000人。
そのうちアトランタには4000人。
日系企業で働いている人も多いので親日的のようです。

アトランタ五輪商業主義の「検証」

 ロス五輪で実業家のユベロス氏が税金を使わない民営五輪という実験を繰り広げ成功を収め、以後の
オリンピックは企業からカネを集め、代わりに五輪の商業利用を認める方式が定着してきました。
アトランタ五輪では、パートナー(10社)、ワールドワイドスポンサー(10社)、スポンサー(24社)の3種類の
協賛方式をとり積極的に企業の金を集めました。
その結果、協賛金は大会総予算17億ドルの40%にのぼりました。
その他はTV放送権料34%、入場料収入26%の比率でまかなわれました。
それ以外にもオフィシャル・サプライヤーといって金ではなく主に大会に不可欠な製品や器具を提供する
スポンサーもあります。
日本のクボタも荒れた競技場の土を整地するため農業用トラクター20台やポンプ発電器を提供。
スポーツ用品のミズノは35カ国、選手1800人に対し製品提供も含め、総額約30億円の支援をしており、
全体では相当な金額になります。
当然、大手スポンサー企業の影響力は増大し、大会運営も多額の放送権料を支払ったTV局の意向が強く
商業主義に走り過ぎと批判の声も多く聞かれました。
 到着したアトランタのハーツフィールド国際空港も協賛企業のオリンピック看板で一色。
競技場のあるダウンタウンは、企業のパビリオンや派手な宣伝看板、五輪グッズを売る屋台が所狭しと
並ぶのは五輪ビジネスそのものの印象です。
 アトランタが本社のコカ・コーラは、4000万ドル(約44億円)の公式スポンサー料のほか、CM等に1億ドル
(約110億円)を注ぎこむ力の入れようで町中にあの赤いトレードマークの看板が溢れ、さながら“コカコーラ
五輪”のようです。
米国のスポーツ用品メーカーは世界から集まった報道陣の記者会見用に、800の席を用意しジョンソンらを
登場させた。
そのジョンソンが金ピカのシューズで走るのは完全に企業ペースそのものです。
 日本の放送権料は7500万ドル(82億円)で前回のバルセロナ五輪に比べて1750万ドル(30.4%)アップ。
このほか、技術協力金として1250万ドル、五輪100周年記念事業特別協力金として1200万ドル、
合計9950万ドルとバルセロナ五輪よりトータルで59.2%アップしました。
日本円に換算すると円高でバルセロナ五輪より放送権料で約24億円(27.6%)、合約11億円(11.6%)も
少なくなります。
日本の五輪放送権はプール方式で放送権料と100周年事業特別金は、慣例に従い民放が2割、NHKが8割を
負担し合うそうです。

オリンピックを支えた人々
五輪は21世紀が生んだ最大のイベントです。
特に今回のアトランタ100周年記念大会は五輪を肥大化させました。
 世界197カ国・地域から11万5000人以上の選手、役員が集まり、26競技271種目を競いました。
大会の裏方となるスタッフ、ボランティアは延べ7万1172人。
大会関係車両は5200台。
TVを通じて世界の約30億人が観戦する規模になりました。

ACOGとUSOGとIOC
 アトランタオリンピック組織委員会(ACOG)は、国際オリンピック委員会(IOC)、米国オリンピック委員会
(USOG)、アトランタ市、ジョージア州政府と協力してオリンピック大会を企画・実行する機関で委員長は
アトランタの著名な弁護士のウィリアム・ポーター・ペイン氏。
 今回の開催誘致には同氏の力がなければ出来なかったといわれ、アトランタのヒーローです。

ジョージア州政府の支援
 ジョージア州政府(商務省経済開発局)の役割は、ACOGと協力し、アトランタオリンピックの企画運営に
あたっており、財政支援はダウンタウンに約28万uの五輪記念公園建設をはじめ公共施設8個所を建設。
総工費で4億5000万ドル(約450億円)。
これらの施設は大会後、市や大学に寄付される予定です。

史上初の大規模ボランティア
 財政難を支えるために大規模なボランティアが動員されました。
会場警備や観客誘導はほとんどがボランティアのメンバー。
そのため不慣れな誘導も目にし各方面で批判がありましたが、逆に警察や軍隊が要人、施設警備の
後方警備にまわったので目立たず市民参加型のイメージでよかったのではないでしょうか。
特に、ジョージア州内だけで郡や市など60の地域社会が、プレ五輪トレーニング連合と呼ばれる地元
コミュニティー組織を作り87カ国の選手団に滞在費を含めすべて無料の合宿地を提供しました。
これだけの現地合宿は五輪史上でも珍しくサザンホスピタリティー(米南部特有のもてなし)の典型でしょう。

在ア日本国総領事館
 在アトランタ日本国総領事館でもオリンピック班を設置し外務省から、佐藤正晴首席領事が「アタッシェ」に
着任。
アタッシェとは、日本オリンピック委員会(JOC)とACOGとの連絡調整、交渉をはじめ日本代表選手団、VIPの
受入れや、事前視察に訪れる各競技団体の世話などをされていました。

オリンピックメモ

ちぐはぐなグッズ販売
 グッズの五輪マーク使用は協賛企業独占ですが開会直後には、Tシャツや帽子、バッチなど一流
デパートでは山積み、それも20〜30%引で販売。
ところが、そのデパート前の公認五輪ショップでは定価販売。
入場券も協賛企業に割り当てられ入手困難続出、ところが当日はダフ屋が堂々と販売しています。
何かちぐはぐなのがアメリカの「奥の深さ」なのでしょうか

五輪のための交通対策
 既存のハイウェイ片側4車線を5車線にして、その新設レーンを2人以上乗車の専用レーンにして渋滞
緩和対策にしていたのはアメリカらしいアイディアでした。
 マルタといわれる地下鉄はオリンピック入場券をもっていると全線無料で、勝手の分からない私たち
外国人には好評でした。
 自動車の運転はしませんでしたが、赤信号でも右折可。
雨の日のワイパー稼働中はヘッドライトを点灯する法律はアメリカの合理主義の一つでしょう。
男女差別の意識の高い国柄なのか、バスや大型トラックの運転手に高齢のご婦人が多いのには
驚きました。
運転技術は立派なもので日本でも十分通用する腕前です。

トイレで国際親善
 報道関係者は1万5000人以上。
競技場の報道席が空席だらけ。
オリンピックファミリーと呼ばれる関係者と、各国からのVIPが計2万5000人。
実際に会場にやってくる観衆は200万人。
テレビ放映時間は3000時間以上で、世界中で30億人が観戦。
大会関係者、観客などのために延べ64万室のホテルを用意。
大会で出るゴミは1万トン以上で史上最大規模。
会場のトイレはいつも長蛇の列。
待ちくたびれて小便しながらの外国人同士お互いの苦笑いは恒例になった国際親善でした?。

日本選手の不振の原因?
 柔道の決勝試合の時、日本選手のコチコチの極度の緊張が観客席にも伝わってきます。
銀メダルでも最高の栄誉なのに笑いもしない選手の表情にスポーツ本来の楽しさでなく重圧に耐える
精神力の試合のようでした。
遠く日本から外国へきて日の丸のために勝たねばならない悲愴感が不振の原因かも知れません。



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