32 1996年10月号
アメリカの地方分権を検証@

住民の意思で自治体を設立 州、市町村の裁量権を尊重

 アメリカ連邦政府が州の権限を制限しようとすれば連邦憲法の改正が必要で、みだりに州の権限を
制約できない仕組みになっています。
日本の都道府県と違いアメリカの50州はそれぞれが憲法を持ち、国家の形態をなしており「一つの国」と
いえます。
その州の憲法や法律で定められた多くの自治体(市町村)が州内にありますが、一から十まですべて
画一的に法律で定められているわけではありません。
日本の国土はすべて自治体に区切られ自治体でない地域は存在しませんが、アメリカでは自治体が
存在しない地域がかなりあります。
反対に地域住民の意志で簡単に自治体が設立されています。
前号でお伝えしたオリンピックのアトランタの市人口40万人ですが、周辺の20郡が集まりアトランタ都市圏
(メトロポリタン)を形成、日本の一部事務組合のような広域行政圏もあります。
 極端な例ですが、今回の訪問したロスアンゼルス・ビバリーヒルズの隣接した某市は同性愛者の町で
有名。
同性愛者の町をつくろうというコンセプトで誕生した町で歴代市長も同性愛者です。
この地域では財政規模が小さく、都市基盤ができていないためゴミ処理や下水道事業、道路の維持管理、
消防、街路樹の清掃等の業務を民間委託し行政運営をしています。
 自治体となるためには、どの区域を自治体にするか、どういう権限を持つか、組織をどうするか、
首長を市長、コミッション、支配人制度のどれにするか等、自由な裁量で住民の意思に基づき決めることが
できます。
基本的な内容を日本の地方自治法にあたるチャーター(憲章)で定めています。
チャーターは州によって統一していたり同じ州でも自治体によって内容が違う場合もあります。
いくつかの標準的なチャーターをつくり、そのなかから自治体に好きなものを選択させるという方法を
採っている州やチャーターの作成を自治体に任せている州もあることです。
 住民の意向を重視しながら制定される システムこそ地方自治の根本であり、組織も運営形態もすべて
政府によって定められている日本の自治体と比べれば、アメリカの自治体のほうが、はるかに「自治体」の
名に値するといえます。
自治体の主権者である住民にできるだけの裁量権を与え、地方自治に住民を巻き込むアメリカの
地方自治の姿勢をもう一度学ばなければなりません。
33 1996年11月号
アメリカの地方分権を検証A

市民の声が届く分権システム カウンティへの委託で行革も

 いかに独自の工夫を凝らしても、人口数万人という自治体の場合は、財政的にも人材的にも限界があり、
業務を委託していることを前号で紹介しました。
 これらの委託する自治体をコントラクトシティと呼ばれ、具体的にはカウンティに委託してサービスを
購入します。
委託内容は生活ゴミや産業廃棄物の処理、上・下水道事業、消防、道路や公園の維持管理、官公庁の
施設の保守点検、申請受付交付事務、会計監査事務など広範囲に及んでいます。
警察業務を委託する自治体も少なくありません。
小さな自治体も専門的な知識や技術をもつ職員を使うことができるというメリット以上に経費節減が
あります。
 コントラクトシティは、サービスに従事するカウンティの職員の給与・諸経費を当然、カウンティに
支払いますが、その金額はサービスの売り手であるカウンティが一方的に決めるのではなく、買い手の
自治体の交渉で決められます。直営と比べ驚くほど安くあがります。
 例えば、人口7万5000人のレイクウッド市は、市の職員はわずか180人(そのほかに300人の非常勤職員)で
運営しており、委託費を含めた歳出総額は92年度で3000万ドル(約33億円)。
同レベルの大阪府交野市(人口7万2000人)の場合、職員は非 常勤を別として630人、歳出は240億円と比べ
大きな違いです。
 日本でもよく似たシステムに一部事務組合方式があります。
一つの自治体ではとうてい実現できないサービスが実施でき評価できる制度ですが、ひとたび事務組合を
設置すると、組合に移譲した業務 は組合そのものの事務となってしまい、それ以後、自治体の議会で
審議の対象とすることができず、市民の声も直接届かない問題が残ります。
 コントラクトシティ(市町村)には、監督権限、責任も残っており、したがって議会はサービス内容について、
その委託の廃止も含め審議することができるし、市民もサービス内容に関して自治体に意見を言える
システムです。
行政改革の叫ばれていますが、その根本は市民を主権においた分権の発想でなければなりません。

【カウンティcounty】・・・州の出先機関・郡であるが、自治権を有し日本の県のような地方団体。
【一部事務組合】・・・規模の小さな市町村が集まって消防署を設置したり、下水道やゴミの収集処理を
一緒にする広域自治体

アメリカの生活事情
 アメリカの医療費が高いのは有名な話
ガイドをしてくれたA氏の娘さんがケガ。をして救急車を呼んだだけで、救急車の費用、医者の治療費、
看護婦の看護料が別々に合計40数万円の請求がきてビックリ。
医療保険が未加入なので値引き交渉をしたら負けてくれたのはアメリカらしい話
支払えない人は「長引く治療ならいつまでも治療するな」と自分の手に入れ墨をしているそうです。
A氏の月収は25万円。
家賃(3LDK)が8万円、食費6万円、保険代8万円、その他3万円タバコを吸うと10倍の割増でいかに保険代が
高いかお解りでしょう。
 ロスアンゼルスでは、高齢者のひとり暮らしと若者のひとり暮らしが増えています。
その影響でコーヒーショップが増えてきたそうです。高齢者や若者のコミニティーの場所になっています。
日本でも定年退職者の人が毎朝、家にいるのが億劫で喫茶店でいるのと同じことでしょうか。?

34 1996年12月号
アメリカの地方分権を検証B

州に三権分立導入で自治確立 不明確な日本の機関委任事務

 アメリカの各州で憲法が制定されていることは前号でお知らせしましたが、もう一つの特長は全ての州が
三権分立の制度を導入していることです。
特に州で司法権を持っていることが、日本の都道府県とは大きく違います。
詳しくいうと州は連邦憲法の範囲内ですが、民法・刑法・商法など基本的な法律についての制定機能は
州にあります。
 州法に係わる訴訟制度も連邦の司法制度から独立しているし、連邦法に係わる1万ドル以下の民事
訴訟も州で行うことができます。
州の裁判所は最高裁判所、高等裁判所、地区裁判所があり、これらの通常裁判所以外に、都市圏における
交通事故、青少年事件等を管轄する日本の簡易裁判所によく似た地方団体裁判所(Municipal Court)が
あります。
州裁判所で有罪とされた者に対し恩赦を行うことができるなど州に大きな自治権があり、州の特色が
生かされているのがよくわかります。
 アメリカが合衆国でなく、合州国と言われるのもうなずけます。
したがって、州の行政にも銀行局と更生局いう日本の行政にはない部局があります。
米国では州が州内の法人の設立許可を行うので、銀行についても州が許可をします。
緊急政策や銀行政策を有し、破 綻した場合の更生機関として更生局が存在します。
明確に分権が確立しています。
 それに引き換え、日本の場合は機関委任事務という“分権”が存在します。
機関委任事務とは、本来は国の事務だが住民の利便や行政の効率を考えて地方自治体等に処理を
任せている事務で旅券発給や飲食店許可など現在561件あります。
そのなかで木津信組の破綻問題でお解りのように金融機関のうち信組だけを都道府県に機関委任事務を
しています。
極めて事務的な内容の旅券発給業務等とは根本的に違う信組の指導・監督業務は地方自治体では無理が
あります。
昨年の8月30日の業務停止以来、現在も破綻処理の最終責任が国と府でなすり合いの状態です。
国からの機関委任事務という極めて曖昧な制度は地方分権に逆行するもので廃止すべきです。
 政府の地方分権推進委員会が、今年3月の中間答申で機関委任事務を廃止を打ち出したが、中央省庁の
抵抗が激しく機関委任事務の性格はそのままに「法定受託事務」と名前を変えて残すことが予測されます。
地方分権の流れをとめないために中央省庁の動向を監視していかなければなりません。


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