51 1998年5月号
ダイオキシン汚染の課題(上)

人体と環境を破壊する猛毒ゴミ焼却と減量の政策矛盾

 大阪府能勢町の焼却場で発生した土壌汚染など日本列島はダイオキシン問題で大騒動です。
連日、新聞やテレビで報道され不安に思われる方が多くおられます。
ところが意外と「ダイオキシン」はわかりにくいとご意見が寄せられていますので2回にわたりご紹介します。
 ダイオキシンを表す単位はナノg(ng-10億分の1g)。
1円玉1個分は1gなので、1ナノgは1円玉の10億分の1になります。
ピコg(pg)は1兆分の1gで、ナノgの1000分の1と非常に小さな単位です。
だから、ダイオキシンを見たことはありません。
ダイオキシンは自然界に存在しない人工化合物で、石油から作り出された有機化合物です。
無色無臭の固体で水に溶けにくく、脂肪に溶け易い性質で太陽からの紫外線で徐々に分解されます。
人間の体内に入ると分解や排泄せず蓄積する性質があります。
体内に入ったダイオキシンが、半分の量になるのに7年かかるという調査データーもあります。
サリンの2倍、青酸カリの1000倍の毒性があり1gで1万人以上が死亡する猛毒です。
ダイオキシンの被害はベトナム戦争の 枯れ葉作戦(1961年〜71年)で有名です。
除草剤に混入したダイオキシンの散布によって、ドク、ベトちゃんのような奇形児が出生しました。
昨年4月に訪問したホーチミン市立ツーズー病院(産婦人科総合病院)では、年間30,949人の分娩に対し
異常分娩は13,747人と高く、そのうち奇形胎児出生は300人以上で、枯れ葉剤の影響とされています。
(飛耳長目39参照)
ガンや生殖機能障害(環境ホルモン)にも影響すると言われています。
ダイオキシンの約90%は、塩素系製品の焼却で発生します。
消しゴムやパンティストッキング等のポリ塩化ビニールのプラスチック製品やラップ類のポリ塩化ビニリデンが
塩素系製品です。
 ごみ焼却炉で燃やし始めてから高温になるまでの300℃から600℃の燃焼時に、ダイオキシンが大量発生
することが判明、 850度以上で燃やせば発生しませんが、日本では8時間、16時間燃焼の間欠運転の
小型炉が多く、政府は24時間連続稼働の大型焼却炉の設置を進め抑制を図ろうとしていますが、逆に
二酸化炭素が発生し地球の温暖化が問題となります。
ゴミを燃やさない政策に逆行することになります。
g グラム 重さの単位
mg ミリグラム 千分の1g ( 濃度 )
μg マイクログラム 100万分の1g (ppm μg/g)
ng ナノグラム 10億分の1g (ppb ng/g)
pg ピコグラム 1兆分の1g (ppt pg/g)
※1ng(ナノグラム)は、1000pg(ピコグラム)
52 1998年6月号
ダイオキシン汚染の課題(下)

環境基準値や規制が未整備 汚染メカニズム解明が先決

 ゴミ焼却炉で発生したダイオキシンは、排ガスとなって大気中の煤煙に付着し、雨水と共に河川や海に
流入し、魚類の脂肪分に蓄積、やがて魚を食べた人間の体に入るとされています。
大気中からの経路よりダイオキシンに汚染された食物経路の方が濃度が高く、95%は食物からと言われる
ほどです。
 ダイオキシンの摂取許容量(TDI)は、厚生省は10pg/g。環境庁は5pg/gと基準が違います。
厚生省のネズミの発ガン実験で影響が出ないレベル(1000pg/kg体重/日)を基準にしたもので、環境庁は
倍の安全率を見たものですが市民から見ると混乱するので統一すべきです。
 日本の大気中のダイオキシン規制値は80ナノgで甘く、先進国は既に86年に0.1ナノgの規制を完了しており
日本も早く追従すべき基準です。
能勢町焼却場周辺の土壌汚染問題で明らかになったように環境基準値がないなど総合的な法規制の
整備が必要です。
ゴミ焼却炉の排ガス規制も廃棄物処理法(97年12月1日施行)で、2002年12月1日から、新設炉は
0.1ナノg/u以内、既設炉は1ナノg/u以内ですが、発生のメカニズムや汚染経路の研究が急がれます。 
 容器包装リサイクル法が97年4月1日に施行され、ガラス、ペットボトルは再生利用が図られますが、
ダイオキシン発生原因のプラスチック製品は2000年4月1日まで規制されていません。 
しかも、各家庭で分別排出しても、行政が分別収集できず野放し状態です。
今までの公害と違うのは、家庭からプラスチック製品をゴミとして出すことは公害の加害者であり、
被害者でもあるわけです。
 日本の1年間のゴミ発生量は、約5000万トン。
焼却量は約3800万トンと焼却率は74%になりますが、ドイツは25%、オランダは23%と比較すると減量化が
遅れています。
ゴミ焼却場も日本の1854カ所に対し、ドイツ53カ所、オランダ11カ所と全くゴミ減量化に対する考え方が
違います。
環境と健康を守るために行政だけでなく加害者と被害者を合わせ持つ市民ぐるみの取り組みが早急に
必要です。


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