178 2009年3月号
WTC移転の議論

府民に理解を求める情報を 移転は都市づくり重要課題

 2月24日から始まった府議会は、橋下徹知事による大阪府庁舎を大阪市南港のWTCに移転することが大きな焦点になり、府議会各会派では賛否が分かれ混沌としています。
 橋下知事はメディアを活用し、WTC移転効果を訴えるので、多くの府民の皆さんは賛成が多いように思います。
■庁舎は府民のもの、正しい情報提供を
 WTC移転による大阪の活性化という発想は面白いと思いますが、地方自治法では、第4条2項に「前項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない」。3項には、「第1項の条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の3分の2以上の者の同意がなければならない」とあります。
庁舎は府民のものです。
わずか1ヶ月余りの本会議で、知事と議会だけで議論し決定するのではなく、多くの課題を府民の皆さんに正しい情報を提供し、理解を求める「時間」が必要です。
皆さんが判断するうえで移転への課題を紹介します。
■南港・大阪城周辺のまちづくりは誰が?
 WTC移転による南港・大阪城周辺のまちづくりを府と市の共同で「都市構想」が提案されました。
「南港地区」は大阪市が市制100周年記念事業として、1988年に策定した常住人口6万人、昼間人口20万人の新都心計画・テクノポート大阪が破綻し、変わって咲州プロジェクトを提案されたものとまったくおなじものです。
「都市構想」では、府庁移転後の大手前跡地を大阪城周辺地区のまちづくりとして、「歴史と文化を体験できる大阪の顔」に位置づけていますが、具体的な計画は示されていません。府民に移転後のまちづくりに理解を得なければなりません。
■市は梅田北ヤード、中之島を優先
 市は、南港、大阪城地区より、梅田北ヤード、中之島地区のまちづくりを優先されており、府の思いとは「ずれ」があると感じます。
 昔から「府市併せ」は「不幸せ」と言われるほど、府と市の関係はライバル意識が目立った関係でしたが、橋下知事と平松市長の友好な関係から氷解しようとしています。しかし、平松市長だけの取り決めは危険です。知事が、大阪市内の再開発を言葉にすればするほど、市の反発は強くなってきます。
 大阪市内のまちづくりは、市が主導的に行い府がバックアップすることがスムーズにいくのではないでしょうか。
これらをわずか1ヶ月府議会でできるとは思えません。また、大阪市会との協議もしないままでは議会の責任も問われます。
本来のまちづくりに必要な基本構想・計画から十分に議論すべきです。
■災害時の安全性は大丈夫か
 東南海・南海地震を想定すれば、埋め立て地の高層建築物の危険性が高く、周辺地域の液状化によってライフラインの不能が予測され、府庁という防災時の指揮所としては不安があります。阪神淡路大震災の翌日、長田区に救援物資を運ぶのに14時間かかった経験から、府が示した災害時の職員の参集計画の実効性に疑問があります。
■買い取り価格は妥当か
 WTC譲渡価格を決定するのに、府の鑑定価格は95億円、大阪市は150億円と55億円の差がありました。今年2月、異例とも言えるわずか1ヶ月足らずの期間での府市の共同鑑定を実施し103億円で妥協しました。
 その後、市から府に移転費用約30億円を求められましたが、府議会からの反対意見を受け、府は市と協議し、WTCに入居する大阪市部局の移転費約30億円は市側の負担とする一方、府のWTC買収後も当面、市部局の年間賃貸料18億8000万円を3億2000万円に減額、転居時の原状回復費用10億5000万円を免除することを府議会に提示しました。 府が肩代わりしたことに違いなく、市の鑑定価格に近づいた感があります。
■身内の経済効果の信頼性
 府は、WTC移転による経済効果を身内である大阪府立産業開発研究所に依頼し、約7802億円と発表しました。咲州地区などの開発が実祭に行われたと仮定した試算で信頼性は低いとされ、この時期に公表する府の意図的な情報と府議会では批判的です。
■提出資料の数多い修正
 府議会に提出された資料には、埋蔵文化財調査費約29億円、WTC周辺の地盤沈下調査結果の未公表、維持管理費、改修費の積算根拠が不明確、関西国際空港からWTC、府庁へのアクセス時間を取り違えなど、意図的でないとしても短期間での資料作成のため提出資料の不備が目立ち、府議会での指摘で訂正するなど十分な議論の妨げになっています。
■変化する橋下知事の発言
 昨年9月に、「WTC移転が安上がり」と知事がWTC移転の理由を発言して以来、「改革変化」、「関西州の拠点」、「東西軸のまちづくり」、「ベイエリアの開発」「経済効果の発生」、「新エネルギー産業拠点」と移転の意義が時々刻々変化しています。
 府議会の議論では、「移転がつぶれればすべてがつぶれる」、「タイミングこそが大切」、「それは政治判断だ」との知事の発言は、議会との議論を回避し、賛成せよと行っているように聞こえます。
 確かに80%を超える高い支持率を背景に、「僕の声は府民の声」と知事は言われますが、WTC移転の具体的な府民のメリットを説明すべきです。
 今議会中に結論を出すのか、総務委で継続するのか、特別委を設置し議論するのか判断をしなければなりませんが、大切なのは府民・市民の意見を反映する時間が必要です。

【写真】府庁の移転先とされる大阪市南港のWTC


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