185 2009年10月号
再提案のWTC移転を検証

WTCビルは府庁舎に不向き 課題山積の咲州まちづくり

 9月府議会に大阪府庁舎をワールドトレードセンタービルディング(WTC)に移転する条例案が再び橋下徹大阪府知事から提出され、9月議会の大きな焦点となり課題を検証しました。

■ WTCビルを府庁舎にした課題 ■
 咲州地区(大阪市住之江区)にあるWTC55階の展望台からは、関西国際空港や淡路島、大阪府内が一望でき、明石海峡大橋に沈む夕日や大阪の夜景を360度眺められる素晴らしいロケーションです。
 しかし、大阪市が約1200億円かけて、平成7年に竣工したWTCビルを府庁舎として使用する場合に多くの課題があります。
 経営破綻したWTCビル価格の約85億円は、中古物件として“格安物件”です。
ところが、1階から3階には、ゲームセンター、スロットなどの風俗店、コスプレ店、医院、飲食店などの店舗、20、24、30〜33、38、43、51階には民間会社や結婚式場が入居している雑居ビルです。
 府では、購入後に民間テナントを退去させる計画ですが、大阪市が入居率を上げるため誘致したテナントを「追い出す」ことになり、立退料の発生や訴訟も予測されます。
 本来WTCビルは、オフィスビル仕様で、官庁舎として一体使用することに無理がありながら、民間会社と“同居”する異色の役所になります。途中階に民間会社があるためセキュリティにも難点があります。

■ 耐震補強よりWTC移転が安いはウソ ■
 WTC移転案が耐震補強案するよりも安くなるという府が示した財政シミュレーションには、カラクリがあります。
 WTC案の整備費は、WTC購入費・改修費・移転費、本館保存改修、利息等で206億円。耐震案では、本館耐震補強費・改修費、利息等で149億円。整備費では耐震案が57億円安くなります。ところが、土地売却収入をWTC案は、425億円(売却面積4.9ヘクタール)、耐震案では255億円(同2.8ヘクタール)としており、売却面積を同じにしなければ比較になりません。売却単価を97万円(u)にしていますが、近傍の府立青少年会館の売却額が31万円(u)であったことを考えると実効性が乏しく数字合わせに思えます。

■ 咲州に移転に対する知事の発言変遷 ■
 WTCがある南港の咲州・夢州地区は、大阪市が市制100周年記念事業として昭和63年に策定した常住人口6万人、昼間人口20万人の新都心計画・テクノポート大阪として、アジアの交流・交易拠点をめざした地区です。
 橋下知事は、咲州への移転の理由を08年8月「関西州の州都」、08年9月「耐震補強よりWTC移転が安い」、09年1月「移転で人、物、カネを動く」、「経済効果が発生」、「新エネルギー供給拠点」、その後も「関西再生の起爆剤」、「改革変化」、「東西軸のまちづくり」、「東アジアの玄関口」と発言され、移転目的がブレています。どうもその時々の気分で発言されるのか、知事の真意を測るのに幹部職員は苦労しているようです。

■ 巨額なインフラ投資は誰が負担? ■
 知事はWTC移転するための仕掛けとして、@リニアモーターカー計画(JR新大阪駅から約1兆円)、AJR桜島線延伸案(約1000億円)、B地下鉄中央線をコスモスクエア駅からニュートラムのトレードセンター駅まで延伸(約300億)を提案していますが、大阪市が否定的で、WTC移転のためにこれだけの投資額が出来るのか、府にどれだけの財政負担がのしかかるのか明確ではありません。
 鉄軌道を開発整備しても、都市魅力がないと人や物が集まる時代ではありません。 知事は集客のため、9月15日の夢州咲州まちづくり推進協議会で、カジノ設置を提案されていますが、政府の特別法を制定する必要があり、国でも所轄が決まらないなかですぐに実現できるものでありません。それよりもまず“賭博場”設置は府民にも理解を求める必要があります。長期的な目標も大事だが、今の府民にとって実現可能な府民にとってメリットのある仕掛けが必要です。

■ 咲州への大阪市の本気度は ■
 咲州コスモスクエア地区(82.2ヘクタール)のうち、35.4%にあたる29.1ヘクタールが未利用地で、同じ時期に開発を行った府のりんくうタウンの破綻処理は定期借地方式導入などで企業誘致に成功しており、事業者の大阪市の対応が遅いように思われます。また、施設運営の努力が足りないと思います。
 いくつかの例を紹介します。大阪市の3セクが運営する大阪国際見本市会場(インテックス大阪)の来場者数は、年間244万人(20年度)。国内では東京ビッグサイト(1300万人)、千葉・幕張メッセ(550万人)には大きく水をあけられています。アクセスが悪いのと、会場内に動く歩道やビジター用カート設置など、高齢者や障害者の来場者に配慮した工夫がされていません。
 アジアトレードセンター(ATC)の4階から6階にかけて、タウンアウトレット・マーレ(41店舗)がありますが、有名ブランドは少なく空き店舗も目立ち、りんくうプレミアムアウトレットなど他のアウトレットと比べるとかなり魅力に欠けます。
 宿泊施設は、ハイアット リージェンシー 大阪(480室)、ホテルコスモスクエア国際交流センター(320室)の2箇所ですが、決して多いわけでなく強い誘致策が必要です。
 WTC移転することで、大阪市は今後5年間で約100億円を咲州地区に投資するとしましたが、これまで毎年約20億円程度を支出しており、この程度で咲州全体の活性化に繋がるとは言えません。

■ 夢州咲州まちづくり推進協の機能性 ■
 大阪市の本気度を府議会から指摘され、府、市、関西経済3団体で構成する夢州咲州まちづくり推進協議会が発足しましたが、経済界は不況のなか積極的でなく、財源を含め行政主導の都市開発は難しい課題です。
 もともとWTCは経済界からの働きかけを大阪市が実現させた経過もあり、行き詰まった開発事業に、経済界が本気で参入するとは思えません。同まちづくり推進協議会に経済界を入れるなら責任まで共有すべきです。南港地域の住民の意見も反映されておらず協議会の機能性に疑問があります。



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