197 2010年9月号
検証・急ぐ府水道企業団の設立

なぜ府営水道がいけないのか 府の責任で企業団運営を!

 大阪府水道部は、水道料金等に住民の意見が反映されやすく効率的な維持管理が期待できると言う理由で、広域水道企業団を設立し、府営水道を平成23年4月1日から府内市町村に移管する方針を決定しました。
 現在の水道事業は大阪府が淀川などの水源から取水・浄水し(用水事業)、市町村に送水、市町村は各家庭に配水する給水事業を行っています。
府営水道は、1立方b当たり78円で市町村に販売する「卸問屋」で、市町村が「小売」の役割をしています。府は、これらの用水事業から全て撤退し、設立させる企業団に行わせようとするものです。
□ 経営統合できない企業団 □

 府内42市町村の現行水道料金は、受水量、受水率、地理的条件が異なり全て違います。
今回の企業団が設立されても、水道料金は換わりません。その理由は、当初は統一料金制をめざしましたが、それでは、高額な市町村は低額になりますが、低額な市町村は高額になることから調整が付かず、統一料金問題を議論せず先送りした経過があります。
単に府用水事業のみを企業団に継承したに過ぎず、市町村の水道事業を経営統合しない企業団方式は将来にわたる遺恨になります。
 府水道部のホームページには、「企業団設立は、事務移譲による地方分権を実現するものであり、府域水道の安定的、効率的な事業の継続のための広域化、また、最終的な目標である府域一水道に向けた大きなステップとなるもの」とありますが、水道料金値下げが可能になるなど、府民のメリットが見えない課題を抱えた今回の企業団方式を検証します。


【写真】府営水道の約8割の水を製造、わが国最大の給水能力を有する村野浄水場(枚方市)。
浄水施設を立体的に配置した世界でも珍しい階層系浄水施設。施設能力179万7千立方メートル。
□ 複雑な組織体で効率化? □

 企業団には、議決機関の議会が必要で30名の議員を置かなければならず余計な議会費が必要となります。議員は、市町村議会議員からの派遣で構成されるので、議会意思の安定性、継続性の確保が困難と考えます。
 執行機関以外に、首長会議、運営協議会を設置するため、現行よりも複雑な意思決定システムになります。効率的な維持管理が期待できるとは言えません。
 執行機関の企業長は、府でなく参加する市町村長から互選されるため、責任ある職務が執行されるとは思えません。

□ 不安定な経営基盤 □

 これまで府の用水事業は、昭和23年から積み上げてきた独自のノウハウであり、府職員456人のうち380名の技術者が、高度浄水処理技術や府内市町村への指導を担ってきました。その立場から一転して、水道事業のノウハウのない企業長の指導下に入って、府職員が市町村職員の指揮下で円滑な経営が出来るのか疑問です。
 実務的な組織体制が示されず、円滑な合意形成が図れるのか疑問ですし図れたとしても受水量の多い特定市の意向に左右され、大半の市町村は追随を余儀なくされるでしょう。
 府営の村野、庭窪、三島浄水場や15箇所の中間ポンプ場など全ての府施設を企業団に無償譲渡するとしています。その後は、地震など災害時の復旧工事費、老朽施設の整備費、送水管の耐震対策費、50歳以上の職員が約50%を占める退職金支払いなどは企業団の負担になりますが、これらの金額はまったく示されておらず経営基盤を揺るがすもので説明不足です。

□ 急ぎすぎる規約案 □

この企業団設立の経過は、府の用水事業を大阪市が指定管理者になり運営するコンセッション型指定管理者制度が頓挫したことから、生まれたものです。
府水道協議会内で2月以降、方針が取りまとめられ、5月27日に、受水市町村長に9月議会で企業団設立規約を議決するよう示されたため、唐突な案として異論が続出。その後に府が説得したこともあり、7月29日の受水市町村長会議で37市町村が9月議会に上程、5市の保留が明らかになりました。
9月議会で議決すれば、設立許可申請を府知事が受け、本年11月中旬に設立許可し、来年2月の府議会に「水道企業条例廃止の議会議決」を求めるとしています。
 府が水道事業から撤退するためには、WTC移転案のように府議会での自治法第244条に定める3分の2以上の同意が必要です。
それだけ重要な議案であるから府議会にも同時に提案すべきです。撤退を前提に各首長を企業団設置に追い込み、市町村議会で規約案の上程を促すのは、府議会軽視にとどまらず、必要な議論を封殺する手法です。
市町村も統一水道料金問題や企業団との役割分担などの課題を先送りせず、9月議会で十分に議論を尽くすべきです。

□ 一元管理の企業団に □

 地方分権のなかで、府から市町村に権限を移譲することは必要なことですが、東京都や大阪市のように、水源から家庭まで一元的に給水するのでなく、用水事業のみを市町村企業団を設立させて行う必要がどこにあるのでしようか。一元的に管理を行っている大阪市が参加しないのも課題です。
大阪府が撤退するのでなく、近隣水道事業者による水平統合(合併)や、用水供給事業と給水事業の垂直統合を行い、一元管理のもと府が企業団のなかで、今までのノウハウを駆使し中核的な役割を担い、安定的な経営の責任を持つべきではないでしょうか。
9月の府議会で、府民にとってよりベストな結論を求めて議会から議論を呼びかけて参ります。

【企業団】とは、地方公営企業の経営に関する事務を共同処理する一部事務組合(特別地方公共団体)



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