23 1997年6月号
ベトナム調査研究報告A

器用さ勤勉さの秘密を探る
英語塾や夜間学校が大盛況 月給を全て月謝につぎ込む

 「ベトナム人は目を離すと、少々、寸法が合わなくても、勝手に判断して製品を作り上げてしまう
器用さがある。機転が利くと言えばそれまでだが、注文とは違う製品で商品にならない」と苦笑するのは
ホーチミン市南部のタン・トゥアン輸出加工区でプラスチック工場を経営する日系企業のダイワプラスチック
社長の橋本氏。

自己流の機転が利く器用さ
 ベトナムはバイク天国。
ハノイ市の人口が、約120万人に対してバイクの保有は60万台。
町はバイクの洪水で、10年以上の猛者バイクも多く、町角で修理している光景をよく見かけます。
エンジンが故障しても近くの部品屋から部品を買ってきて、いとも簡単に直してしまう。
また、エンストすると路上専門の修理屋が抜け目なく寄ってきて商売を始めます。
 スクラップ寸前のテレビでも他のメーカーの部品を寄せ集め、どこのメーカーか分からないほど器用に
「新品」に完成させます。
 ベトナム人は日本人とよく似て手先が器用で識字率が高く勤勉な国民が通説になっています。
確かに、ベトナムでは労働者の大半は夜学に通うし、子供の塾も大繁盛していますが、日本風な勤勉さとは
違いがあります。
日本の器用さは寸分違わない伝統的な技術とすれば、ベトナムの器用さはマニュアル通りでなく
自分勝手に判断して作り上げてしまう機転の器用さと思います。
 東南アジアの国々では、外国人が集まる観光地や名所に物売りやストリート・チルドレンが出没します。
誰彼なしに日本人を見つけると「シャチョウ!、シャチョウ!(社長)」と呼びかけ次は「シェンエン、シェンエン!
(1000円)」とニホン語の決まり文句で民芸品を売りつけます。
しかし、ベトナムの物売りやストリートチルドレンは少し違います。
5〜6歳から12歳ぐらいの子供たちが、ガムや絵葉書、使用済み切手を買ってくれとベトナム語でしゃべり
まくります。
ベトナムに誇りを持っているのか下手な日本語など使いません。
断ってもいやな顔もせず、買うまで必死でしゃべり続けているバイタリティには驚きます。
一日中、収入があるまで働きます。彼らには物乞いでなくビジネスと思っているから施しを受けるような
態度でなく堂々としています。
ここにベトナム人の「勤勉さ」の秘密があるのではないでしょうか。

驚異の識字率95% 向学心は就職への道
ベトナムの都市部の識字率は95%でアジア諸国ではたいへん高く、2000年には100%にしたいと
教育省高官。
古くからベトナム人には文字を知ってるものが知らない者に教える慣習があり、高校生には今も夏休みには
各地方に派遣され「文字」の知らない人に教えることが義務づけられています。
 向学心が旺盛で、ホーチミン市では夜間の専門学校に約40万人の労働者が通います。
英語、中国語、日本語の語学が盛んで、最近はコンピューター専門学校が花盛り。
校舎は公立の学校を使用します。
もともと学校が足りず小学校の場合、午前中は1、2年生、午後は3、4、5年生が使い、夜を専門学校や塾に
開放しています。
インフラを実に効率よく活用しているのはベトナム人の合理性と思います。

金目でない科目は人気なし
向学心が旺盛な理由は、英語、中国語、日本語の外国語やコンピューターを習得していると就職率が
高いからです。
就職難で単純作業の職場でも数十倍の応募があり、技能や特技がないと思うように就職できません。
英語専門学校の月謝は50USドル。月給と同額です。
月謝を稼ぐためにまた働く。
夜間専門学校が高級サラリーマンや公務員にも盛況なのは、より高給な転職や昇進に役立てようと
するからで、実務的 でない学問は人気がなく、金目につながる科目でないと繁盛しないのが実態です。
日本人は仕事を生きがいにする傾向がありますが、ベトナム人は仕事は収入を得るためと割り切って
います。
残業も会社のためでなく、残業代や技術習得を得るためです。
したがって、自分のために勤勉なのです。
帰国の前日の政府高官との懇談のおり、「貴国の勤勉さには感動しました」と言うと「あなたがたの今回の
訪越の過密なスケジュールこそ勤勉ですよ」と切り返されました。
その言葉のなかに、ベトナム国民は勤勉さをたいへん誇りにし、ベトナム戦争で米国に勝利した自信が、
これからのベトナム発展の大きなエネルギーに間違いありません。
日本の発展のひとつは勤勉さでした。
今の日本人に忘れかけているものが、今のベトナムにあるのではないでしょうか。


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