24 1997年7月号
ベトナム調査研究報告B

月給と月収とは大きな違い
相手を見て検挙する警察官 非課税の手数料収入が課題

 国営企業タメスコ社のフォック社長がベトコンバンクから約30億円の不正融資を受け、大半の資金を
マカオのカジノ豪遊や親族や友人の会社に横流し、関係者20名が逮捕されたベトナム史上最大の
汚職事件がありました。
ベトナム版住専です。
ベトナムでの30億円は大変な金額で、裁判日には数千人の国民が押しかけるという関心の高い事件で、
1月の裁判で主犯格のフォック社長、幹部のハイ、ビンが横領罪、カインが収賄罪で死刑の判決を
うけました。
日本では横領や収賄で死刑は考えられないが、ベトナムでは急激な経済発展で不正も続出しており、
警告の意味をこめ「社会主義財産の横領は重い罪」と見せしめに極刑を付したようです。
現在のベトナム国内の労働者の平均月収が60USドル(約6600円)からするといかに巨額か想像して
いただけるでしょう。

月収50倍のバイク、2人に1人が所有
ホーチミン市の日系企業でベトナム人の月収を聞くと、高卒で55USドル、オペレーター(高卒専門学校)
70USドル、大卒エンジニア100USドル、スーパーアドバイザー(英語堪能者)250USドルで男女とも賃金の
差はほとんど無く、ボーナスは年に1か月支給が普通という。
月収で不思議なのは、ベトナムではバイクの新車が30万円。
ハノイ市では二人に一人が保有しており、月収の約50倍のバイクがどうして購入できるのでしょうか。
 それに、ベトナムの標準世帯の生活費は月額300USドルは必要といわれているのに、平均月収
60USドルというのはどうしても計算があいません。
 その秘密は、社会主義国家にみられる共稼ぎ世帯が大半であることと、アルバイトと賄賂にあります。
公立学校の教師は自宅で塾経営のアルバイトが当たり前になっています。
学校の授業では肝心なことは教えず「もと勉強したければ自宅に来い」と生徒一人に40USドルの月謝を
稼ぎます。
医師も自宅で診察(前号で紹介)。国の制度として副業が認められているようです

警察官も賄賂に熱中 チップ・謝礼の感覚
 もうひとつは賄賂社会。
交差点で交通警察官が目を光らせています。
高級な新車バイクが停止線を少しでもオーバーするとすぐ検挙します。
罰金は50,000ドン(約500円)ですが、罰金のかわりに20,000ドン(約200円)くらいの賄賂を道端で堂々と
請求します。
取り締まる警察官が賄賂を懐に入れるのは信じられない光景ですが、貧しい人を検挙しないのは
ベトナム警察官の良識なのでしょうか?。
相手を見て検挙するあたり立派な商売です。
だから、ベトナムの本当の金持ちはいい服装をしません。
 ある日系企業がハノイ市に駐在事務所を開設するのに2年前に30万円であった「手数料」が、現在では
300万円と急騰。
普通3カ月かかる行政手続きでも「特急料金」を出せば1カ月で許可されるそうです。
「手数料・特急料金」は正規の手数料でなくすべてお役人の副収入で賄賂。
ベトナム語で「ホイロー」というそうで、日本でいう賄賂とは違い、謝礼・チップの感覚なのでお咎めが
ありません。
だから、給料が安くても生活できる秘密がお分かり頂けたと思います。
 また、人の紹介や推薦にも外国人にかかわらず手数料がとられます。
今回の視察研究で多くの行政機関や施設に面会を申し込みましたが、政府直営のベトナム旅行公社を
経由すると1カ所あたり200〜250USドルの紹介料を請求されました。
10カ所を予定していたので合計2500USドル(約275,000円)になります。
別の面会ルートがあったのでお断りしたがまったくびっくりします。

余談でもうひとつ。
ホーチミン市の宿舎ニューワールドホテルでの出来事。
日本からのファックスを受信して20USドル(2100円)を請求されました。
鈴木「受信なので請求は間違いですよ」
ホテル「受信でも料金を頂きます」
鈴木「こちらから送信すればわかるが」
ホテル「1枚は無料だが、2枚以上は有料です」
よく分からない理由ですが、キッチリと支払わされました。
手数料の考え方が全く違うところに異国のおもしろさがあるのでしょう。

 月給と月収と大きな違いがあり、月給に含まれないアングラマネーの存在が、ベトナム国民の勤労意欲の
低下や税金の徴収にも影響していると思います。
賄賂や副収入によらない給与体制を早急に確立しないとこれからのベトナム経済発展の大きな弊害と
なるでしょう。

一口メモ ベトナムコーヒーをご存じ?
◆ベトナムのコーヒーは、仏領インド シナ時代の19世紀にフランス人がゴムや茶と共に持ち込みました。
南部高原地帯のバンメトート、ダラットが産地で、今では年間21万トン、4億9400万ドル(約550億円)を
輸出(1995年)するほどです。
その多くを日本が輸入しているのは余り知られていません。
◆ブラジルやコロンビア産の高級品種アラビカ種でなく、品質の落ちるロブスタ種のため、日本では
ブレンドコーヒーに混ぜて売られているそうです。
◆ベトナムコーヒーは、アルミ製の特殊なフィルターでカップごとにドリップする珍しい方法です。
街角のいたるところにカフェがあり、いつでもコーヒーが飲めますがトロッと濃厚なので どうも
馴染みませんでした。


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