科学読み物                                初版2004,6,5
 
  

      地球をかけめぐる火山の

           火山灰の話

                         西村寿雄





                         地層の写真

          

 みなさんの近くに,上の写真のようなしましまの見える崖はありませんか。山を切り通している道や海岸などでよく見られます。

このような崖を〈地層(ちそう)〉と呼んでいます。たいていは,海や川の底にたまった土砂からできたものです。この地層をよく見ると,いくつものちがった砂や粘土が平らに積もっていることがわかります。

そのような地層の中に,粒がよくそろった細かな砂の層を見ることがあります。それは,火山の噴火によって積もっ

た地層の可能性があります。

火山噴火の写真を見たことがあるでしょう

か。日本の火山は,たいてい,写真のように大

噴火を起こします。このような噴火は地下

のねばねばしたマグマを直接吹き出すので,    噴火写真

大きな岩から小さな岩まで,砂やガスもまじ

えて,さまざまな〈火山物質〉をき出します。時には,高温の噴出物が山頂から一気に流れ出るので時には大災害をおこします。

また,真っ赤な溶岩が流れ出ることもあります。                 


  
火山災害写真

このような火山の写真を,みなさんは見たことがあるでしょうか。

 さて,その火山から噴き出た噴出物の中に,とても小さな粒もまじっています。その小さな小さな粒は,空高く空中に巻き上げられ,あたり一体に降り注ぎます。それらが積もってできた層が火山の砂粒層です。この砂粒層のことを,科学者は〈火山〉と言っています。原則として,直径2mm以下の大きさの粒に〈火山灰〉という名前をつけているのです。〈灰〉といっても,ものを燃やした灰ではありまません。

 

 さて,その〈火山灰〉からどんなことがわかるのでしょうか。あなたは,どう思いますか。「そんな小さな砂粒では,たいしたことはわからないではないか」と思うかもしれません。しかし,その小さな砂粒にはいっぱい秘密がかくされているのです。さあ,今から,その秘密をさぐってみましょう。

 その前に相手を知らなくてはなりません。砂粒といっても,海や川で積もった砂と火山から飛んできた砂とはちょっとちがいます。海の砂と火山の砂とどこがちがうのでしょうか。

海や川の砂は,たいてい石英などの小さな粒がたくさん入っています。場所によっては,火山の黒い砂や小さな石ころが入っている場合もあります。

〈火山灰〉にはどんなものが入っているのでしょうか。

〈火山灰〉の砂は,さまざま鉱物の粒の集まりです。火山から出てきた噴火物の中には,岩石を作る元になるさまざまな鉱物が含まれています。地下でゆっくりとかたまって岩石になる前に,火山で吹きとばされてしまうからです。その鉱物の小さな小さな粒の集まりが〈火山灰〉なのです。

では,いったい火山の鉱物の粒とはどんなものでしょうか。

顕微鏡で見ると,その一つ一つがとてもキレイな結晶であることがわかります。もちろん,吹き飛ばされて壊れたりしているものもありますが,たいていはきれいな結晶として見ることができます。

では,どんな鉱物が入っているのでしょうか。あなたは,いくつか予想がつきますか。予想のつく人は書いておきましょう。

まずは,どんな鉱物が入っているか,下の顕微鏡写真をみてみましょう。

(学校にいるみなさんで,もし,火山灰が手に入るようでしたら.直接双眼実体顕微鏡で見せてもらうとよいでしょう。キラキラしたいろいろの粒が見えるでしょう。少し,洗ったり乾かしたりすればよく見えます。)





          火山灰顕微鏡写真



写真の主な鉱物の名前

@磁鉄鉱

A輝石

B角閃石

C雲母

D火山ガラス

E石英

                    

場所によって少し違いますが,火山灰にはいろいろな種類の鉱物が入っています。なかでも特徴的なのは,火山の噴火で急に冷やされたために出来るガラス鉱物です。〈火山ガラス〉と科学者は名づけています。うすいガラスの破片みたいなものが入っていませんか。噴火の場所から遠い火山灰ほど火山ガラスはたくさん入っています。

 磁鉄鉱)は砂鉄になる鉱物で真っ黒です。磁石にくっつきます。輝石,角閃
,かんらんも火山の石に多い鉱物です。茶,,緑などの色をしています。白いのは,石英か空気の入った軽石です。中には,噴火の勢いで粉々に吹き飛ばされた火口付近の岩石の粒もあります。

 さて,次の問題です。

火山灰は火口からどのくらいの範囲にまで届いていると思いますか。  

日本の火山で,今まで噴火した最大の火山を例にします。

 ア、 噴火口から半径10Kmくらい

イ、 噴火口から半径100Kmくらい

ウ、 噴火口から半径1000Kmくらい

  エ、 もっと長い距離


 日本の火山灰は,西からの風によって,たいていは,噴火口よりずっと西に流れます。



            日本地図






1975年の6月のことです。

東京で火山灰を調べていた新井さんと町田さんが鳥取県の大山の近くにやってきました。そして,

「似てる,じつによく似てる,しかし,まさか…」

,首をかしげてしまいました。今,この二人が見ているのは粒の細かい黄色がかった火山灰です。関東平野の西にある〈丹沢〉の火山灰とこの大山の火山灰とがそっくりなのです。帰ってから,この二つの火山灰を細かく調べると,ますます,同じ成分であることがわかりました。

 「丹沢と大山では1000kmも離れているではないか。そんなにも離れた場所の〈火山灰〉が同じ火山のものか? まさか…」

二人の科学者は首をかしげました。

さらに二人の科学者は,大阪や京都の同じ時代の火山灰も調べました。するとどうでしょう。今までのものとまったく同じ火山灰が見つかるではありませんか。その後の調査で北は青森県にも同じ火山灰の層があることがわかりました。これはもう,一つの火山の〈火山灰〉が西日本から東日本,東北にまで広く降り注いでいたというより他ありません。

だんだんと調べていくと,その〈火山灰〉を出した火山の位置がはっきりしてきました。その火山の噴火口は今の桜島火山のある「錦江(鹿児島湾)だということがわかりしまた。約2万年前の噴火です。            今の桜島よりも何千倍もする大噴火です。「姶良火山」と名づけられています。
 このような大噴火は日本では,今までに何度もあったことがわかってきました。約41万年前には,阿蘇で大爆発し,この時の火山灰の層は北海道でも見つかっています。この場合は1500km先でも火山灰が積もっていたことになります。じっさいに火山灰の飛んだ範囲は,それよりもっと広く何千Kmもたっしたことでしょう。この時ばかりは,日本国中が長い間,火山灰の闇に包まれたのではないでしょうか。

もっと,近年では,6000年前にもこのような大噴火が起こっています。九州の屋久島あたりにあった火山が噴火し,その時の火山灰の地層は北関東にまであります。このときは,もう縄文人が住んでいたので,びっくりしてにげまう縄文人の姿があちこちであったのではないでしょうか。

最近の研究によれば,北アルプスのやり穂高,高地など,全部ふくめた「火山」が,今から176万年前に大爆発をしたのだという。その時の火山灰の厚い地層が淡路島や房総半島で見つかっているといいます。

この時は噴火口を中心に,ほぼ同心円状に火山灰が降下したとのことなので,ほぼ日本全国を埋め尽くしたのではないでしょうか。

 

それにしても,たかが小さな砂粒の研究ですが,火山灰の研究は,過去の知られざる日本の姿を次々と明らかにしていきます。今後もいろんなことがわかってくるでしょう。

【参考図書】

 1. 『火山灰は語る』 町田洋著 蒼樹書房 1977

2. 『地層の知識―第四紀をさぐる』町田洋他著 東京美術 2000改訂版 

3. 『新版 火山灰分析の手引き』野尻湖火山灰グループ著 地学団体研究会 2001 

4.  『火山はすごい』鎌田浩毅著 PHP新書 2002

5.  『地球は火山がつくった』鎌田浩毅著 岩波書店 2004

6. 『超火山[槍・穂高]』原山智・山本明著 山と渓谷社 2003

    

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