【科学読み物】                       5版
  原子・分子からみた
           鉱物(こうぶつ)と岩石(がんせき)
                          西 村 寿 雄
 
 地球の表面(ひょうめん)には空気があります。空気はふわふわした気体で、窒素(ちっそ)分子
や酸素
(さんそ)分子、二酸化(さんか)炭素(たんそ)分子、水分子などがいりまじっています。空気
の粒
(つぶ)一つ一つは分子です。
地球そのものは鉱物(こうぶつ)や岩石でできています。鉱物や岩石はとても固(かた)いかたまり
です。では、この固
(かた)い鉱物や岩石も分子でできているのでしょうか。あなたはどう思いますか。
 みなさんは、水晶(すいしょう)を見たことがありますか。先生に見せてもらいましょう。水晶は図
のようにとてもきれいな形をした鉱物です。すきとおった
ガラスのようです。たいていの水晶は
このように
とがった六角柱の形をしています。  
  また、方解石(ほうかいせき)という白い鉱物もあります。これは直方体をおしつぶしたよ
うな形をしています。そして、こわれてもこわれてもまた同じ形になる不思議な鉱物です。       
 
また、磁鉄鉱(じてっこう)という鉱物もあります。磁鉄鉱は八面のとがったきれいな形をしているこ
とがあります。
       
  磁鉄鉱は砂鉄として砂の中にまじっていることもあります。砂鉄をルーペで見てもそんなにき
れいな形に見えないことが多いですが、それはあとで角
(かど)がとれたりしたためです。                            
 今までみてきた水晶(すいしょう)、方解石(ほうかいせき)、磁鉄鉱(じてっこう)はすべてあるきまった形をして
います。これらを鉱物といいます。鉱物は、たいていは六角柱とか立方体とか正八面体とか、板
の形とか、その鉱物にきまった形をしています。
 鉱物があるきまった形をするのは、鉱物もすべて原子や分子でできているからです。原子や
分子はたくさん集まって固まると、
きまった形に並ぶ性質(せいしつ)を持っているからです。
 水にとけた食塩水も、自然に乾かしておくと、四角い粒(つぶ)になってでてくることと同じです。食
塩の分子がたくさん集まって四角い粒
(つぶ)  成長(せいちょう)するのです。このような決まった形
をし
た粒のことを結晶(けっしょう)といいます。 
 水晶や方解石(ほうかいせき)、磁鉄鉱(じてっこう)も地下で結晶(けっしょう)となったのです。
 
 では、水晶や方解石、磁鉄鉱はどのような原子でできているのでしょうか。水晶や方解石、磁
鉄鉱は下の表のように、いく種類かの原子が集まってできています。
 水晶 = ケイ素()原子1個、酸素(さんそ)原子2個
 方解石 = カルシウム原子1個、炭素
(たんそ)原子1個、酸素原子3個
 磁鉄鉱 = 鉄
(てつ)原子3個、酸素(さんそ)原子4個
 
水晶や方解石、磁鉄鉱には、それぞれいく種類かの原子が入っています。これらの鉱物のどれ
にも入っている原子は何でしょうか。それは酸素原子です。
鉱物には、一つの原子だけでできた鉱物もあります。たとえば、自然にできる金、銀、銅、硫黄(いおう)
白金
(はっきん)などはそれぞれ一つの原子でできています。
そういえば、ダイヤモンドも炭素という原子だけでできています。ふつう、炭素という原子は炭になっ
たり石墨
(せきぼく)になったりしますが、ダイヤモンドにもなります。                  
 ダイヤモンドは地下深い地球の中で、高い高 い熱と強い強い圧力でおしかためられた結果できた
ものといわれています。同じ原子でもおしかためられかたによって、性質がぜんぜんちがうものがで
きるのですから不思議です。
 
 それでは、わたしたちがよく目にする岩石(がんせき)(石ころ,岩)はどのような原子でできているでしょう
か。岩石
(がんせき)の代表として見られる花崗岩(かこうがん)を見てみましょう。
 花崗岩(かこうがん)をよく見るといく種類かの粒(つぶ)がまざっていることがわかります。たいていは、3種
類ほどの粒がまざって見えます。それ
らの粒は石英(せきえい)、長石(ちょうせき)、雲母(うんも)がほとんどです。
これらの石英
(せきえい)、長石(ちょうせき)、雲母(うんも)も、みんな鉱物です。これらは特に岩石を作っている
鉱物=造岩鉱物
(ぞうがんこうぶつ)とよばれています。                      
 この花崗岩(かこうがん)を作っている鉱物の原子をみると次の表のようになります。
石英 = ケイ素、酸素(さんそ)
長石
(ちょうせき) = カリュウム、アルミニウム、ケイ素、酸素、  
雲母
(うんも)  = カリュウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、
      水素、フッ素、ケイ素、酸素、
 
 長石にはカリウムの代わりにカルシウムやナトリウムの入ったものもあります。また、雲母にも、マグ
ネシウムの代わりにアルミニウムの入ったものもあります。この表を見ると、花崗岩を作っているどの
鉱物にも入っている原子は何と何でしょうか。それは、ケイ素原子と酸素原子です。
 花崗岩(かこうがん)を作っている鉱物の中で、石英はケイ素原子と酸素原子だけの組み合わせですが、
長石
(ちょうせき)や雲母(うんも)の鉱物も、そのほとんどはケイ素原子と酸素原子がつながった分子をもとに
できています。これを科学者はケイ酸塩
(さんえん)鉱物(こうぶつ)とよんでいます。
 このケイ酸(さん)(えん)鉱物(こうぶつ)の分子はケイ素原子の四方に酸素原子を4つ持っています。この
分子がたくさん集まって石英を作り、そのすき間に、アルミニウム原子やマグネシウム原子やカリウム
原子などの小さな原子が入りこんで、長石
や雲母をつくっているのです。    
 花崗岩(かこうがん)だけでなく、地球の中で生まれた岩石のほとんどは、ケイ素原子と酸素原子を中心に、
少し他の原子が入りこんでできています。この他の原子の入りぐあいによって、さまざまな岩石(石)を
つくっていることになります。
 
 現在わたしたち人類が、この地球上で原子を見つけているのは103個です。そのほとんどは地球
の中にもあります。科学者が調べた結果、マグマや岩石の部分にある原子の重さくらべてみると、酸素
原子が約44%、ケイ素原子が約28%もある
とのことです。これをグラフにすると下のようになります。
酸素原子とケ
イ素原子がたくさんあるのがここでもわかります。さらに、体積で見ると、もう酸素原子が
90%以上もしめているとのことです。
 そういえば、ケイ素という言葉は漢字で書くと〈珪素(けいそ)〉と書きます。よく見ると〈王〉と〈土〉と〈土〉で
できています。まさに、ケイ素は土の中の王様です。
 人間の体の中にはケイ素原子はありません。その代わり、炭素原子、窒素原子が多くあります。もち
ろん、酸素原子もたくさんあります。
 こうしてみていくと、酸素原子は空気中でも、岩石の中でもなくてはならない原子であることがわかりま
 す。             
 
 岩石には、白っぽい岩石や黒っぽい岩石があります。見た目で白っぽい花崗岩(かこうがん)は酸素原子
とケイ素原子がほとんどです。しかし、同じ花崗岩
(かこうがん)でも、地表近くで急に冷えて、結晶ができずに
ガラスのようになって、黒く見えることもあります。
 火山の近くに行くと玄武岩(げんぶがん)や安山岩(あんざんがん)という黒(灰色)っぽい岩石が目につきます。こ
の玄武岩
(げんぶがん)や安山岩(あんざんがん)は、花崗岩(かこうがん)に比べてマグネシウム原子や鉄原子が多く入
っているのです。
 花崗岩(かこうがん)などはたいていは地中でゆっくりと冷えてできるので、中にある一つ一つの鉱物の粒
はよく見えます。鉱物の粒はゆっくりゆっくり冷えると大きな結晶になるのです。しかし、火山として吹き
出した岩などには、急に冷えたりして、目に見えるような結晶として残らないのものもあります。
 このように見ていくと、たくさんある岩石の種類も、ちょっとした原子のまざりぐあい、できるときのマグ
マの冷えぐあいで、姿や形、色がちがって見えているのです。そして、そのもとになっている原子は、ど
れもケイ素原子と酸素原子なのです。
                                                       
 
■ この読み物は「もしも原子が見えたなら」や「結晶」「三態変化」  「溶解」などの授業を受けた子ども
に読んでもらうことを想定して  います。
                           
■ この読み物を読んだ後、ビー玉やBB弾などで、水晶、方解石、磁  鉄鉱(食塩)の分子模型をつくって
みるといいでしょう。
   (参照『ものつくりハンドブック』3 、『結晶』仮説社) 
■本文中の「珪素の漢字の話」は、由良文隆さん発案です。
 
[参考資料]
   『鉱物』八木健三監修 地学団体研究会編  東海大学出版会
    『変動する地球』 斉藤靖二・綱川秀夫著  岩波書店  
   『楽しい鉱物学』堀秀道著  草思社
   『視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』 数研出版
   『たのしい鉱物図鑑』堀秀道著  草思社
   『鉱物』(科学のアルバム)塚本治弘著  あかね書房 
   『鉱物・岩石』ポケット図鑑  学研
   『原子とつきあう本』 板倉聖宣著  仮説社
   『結晶』板倉聖宣・西谷亀之・犬塚清和著  国土社
                   
                                             2002,9,13
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