1995年度                              1995,9,16

        日本理科教育学会近畿支部大会発表要旨

                仮説実験授業における原子論的認識論(2)
                     ―イメージ豊かに物質の変化―

                          ○ 西村寿雄
                     大阪府寝屋川市立三井小学校
                    (仮説実験授業、認識論、教材論)   

 仮説実験授業は、1963年に板倉聖宣氏によって提唱された科学教育論であり、提唱されて
30年以上を経過している。当初、ごく一部の私立学校や公立学校を中心に実験的試みが重ね
られていたが、現在では数万人の教員に実施されていると推定される。 仮説実験授業は、「科
学上の最も基本的な概念や原理・原則を教えるということを意図した授業」であり、「科学的認識
は、対象に対して目的意識的に問いかけるという意味における『実験』を通してのみ成立する」
「科学的認識は社会的なものである」という考えにもとづいて授業が組み立てられている。また、
授業書をもとに授業をする方法をとることにより、授業における法則性を見つけだし、授業科学
としての位置づけも確立している。前回は、その内容論に焦点を当てて、原子論的認識論の基
礎として小学生から取り上げられている『もしも原子が見えたなら』を例に実践報告をした。今回
は、それらの教材が基礎になって「物質の変化」を生き生きと豊かに描かせている成果を報告
したい。あわせて原子論の小学校からの導入の可能性を実証しその必要性を述べる。

 仮説実験授業における物性に関する授業書

                       《燃焼》    
                        ↑
              《温度と沸とう》  《いろいろな気体》 
                        ↑  
             《三態変化》《溶解》 《結晶》 
                        ↑     
               《もしも原子が見えたなら》 
                        ↑
                    《ものとその重さ》
           

1.授業書   
        仮説実験授業で物質の変化を扱った教材(授業書) には下記のものがある。
 
   《溶解》  さまざまな溶解現象にあっても、物質不滅の原理 が成立することを原子論的に知
        らせ、あわせて溶解現象の多様性にも目を向けさせる。   

   《結晶》   ほとんどすべての固体は原子が整然と並んだ集まりであることを具体的に知らせ、
        あわせて、結晶の美しさにふれさせる。 

  《三態変化》 水だけでなく多様な物質の三態変化を取り上げ、「すべてのものは三態変化する」  
           ことを実験的に認識させ、あわせて分子・原子論的イメージを豊かに描かせる。

  《温度と沸とう》  一定の温度になると物は沸騰することを教え、沸点の違いによって物質を区
          別することができるおもしろさも知らせる。あわせて、測定誤差についても考えさせる。

 《いろいろな気体》  空気中にあるさまざまな気体を取り出し、それらの性質を実験によって楽し
          く知らせながら、気体の一般的性質を興味深く学ばせる。

  《燃焼》  さまざまな〈燃焼〉現象を通して、化学変化というのは原子と原子の結合、分離で
         あることを実験的に検証させ、あわせて、それぞれに重量保存の原理が成り立って
         いることを興味深く知らせ、化学変化の不思議さとおもしろさを味わわせる。

2.子どもたちの感想

  ・わたしは、空気が液体や気体になるとは思わなかった。どうしても不思議でしかたがない。 
   とすると、ほかの物が、例えば水を熱してじょうはつさせ、それをビンの中にとじこめて 
   やると、液体になり、固体になるのか。空気と水とはちがうけれども、水がそうなったら
   わたしの疑問がひとつへることになる。  (水でなくてもほかのものでもいい)

    それから、太陽が6000°もあり、またその温度まで上げると、みんな気体になって
   しまうとゆうことも、それから気体の分子ははげしく動き、固体がきれいにならんでいる
   ということも、みんなみんな、わたしの不思議なことばかりだ。  

    わたしはいままで、理科をやってきて、三態変化がいちばんおもしろかった。むずかし
   いところもあったし、わたしの予想はたいていはずれていた。だからよけいに興味があっ
   ておもしろくて不思議なことばかりだった。 
         『三態変化』(宮川真美子・1973年 寝屋川市立明徳小学校 5年 西村寿雄学級) 

  ・「スチールウールをもやし、重さをはかった時、最初の時とどちらが重くなるか」という
   問題で、ぼくは、もやした時分子がもえ軽くなるんじゃないかと思ったんだけど、重くな
   った。重くなったということは、何かが入ってきたということになる。それは、酸素と鉄
   がまじってできたもので、「酸化鉄」というもので、これは銅やマグネシュウムの時にも
   できおもしろかった。

    もうひとつは、水素がもえることだ。水は火を消すのに使うけど、これはもえるなんて
   とてもおもしろいと思った。それに、分子にはだいたい形があるということやいろいろな
   記号や数字であらわすことだ。 
               『燃焼』(上田修・1975年 寝屋川市立三井小学校 6年 西村寿雄学級)

 

3.原子論を小学校教育の中に導入することは決して難しいことでもなく、無理なこと ではない。
  適切な科学教育観と適切な教材によれば、子どもたちも楽しく生き生きと イメージ豊かに〈原
  子論〉に挑戦できることが仮説実験授業によって実証されている。

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