ベトナムの経済


【経 済】1986年ドイモイ政策以降、社会主義志向の市場経済制の導入で、GDP成長率が
9.5%(95年)と高い経済成長の経済事情。特に税制度、日本からの投資について調査。
* ドイモイ・・・ドイとはベトナム語で変える。モイは新しくするの意味。刷新・開放等

<調査先>
ベトナム政府計画投資省(MPI)、ベトナム政府商務省、ベトナム商工会議所、
タントゥアン輸出加工区(ホーチミン市)日系進出企業。

ベトナム経済の今後の行方
ドイモイ経済政策導入の背景・目立つ法律・インフラ未設備
 ベトナムの急激な発展はドイモイ(刷新)政策の導入にあります。
社会主義ながら自由経済を導入した背景、成果の調査研究が訪越の大きなテーマでした。
 1975年ベトナム戦争後、南北統一を果たし、北べトナムで行われていた社会主義システムを急速に
導入したため南ベトナムの華僑が反発、大量の難民問題(ポートピープル)に発展しました。
さらに77年の干ばつや水害に見舞われ78年のカンボジア進攻や中越戦争などで国内は、
  @3桁のインフレ
  A巨額な財政義字
  B歳入の約3割を依存していた旧ソ連、束欧諸国からの援助の急減
  C国営企業の行き詰まり等で危機的経済状況に陥りました。
 この苦境を打開するために、新経済政策を導入したが、85年には財政赤字は対GDP比12%にのぼり
紙幣の増刷を行ったことが、再ぴ高いインフレを引き起こす原因になりました。
そのために86年12月の第6回党大会で経済の安定を図るため市場経済の導入と対外全面開放政策を
柱としたドイモイの導入になりました。
主な内容は国内経済改革では、
  @歳出の3割を占めていた国家補助金の廃止
  A国営企業の独立採算制を導入
  B農業の個人経営を許可
  C市場価格の導入
  D個人所有権の認可
  E不動産市場の自由化などです。
 対外全面開放では、
  @貿易の自由化
  A外国投資法の制定
  B西側からの資本や技術導入の許可などです。
その結果、90年にはいってインフレが収まり、為替のレートも安定、経済が好転しました。
92年に制定された新憲法(ドイモイ憲法)では、市場経済化、対外開放が明文化されドイモイが国是で
あることが再確認されました。
特に、93年2月のクリントン政権の対ベトナム経済制裁(エンバ一ゴ)の全面解除、近隣アジア諸国との
関係強化を図るため95年、ASEAN(東南アジア諸国連合)に正式加盟によってさらに活気づきました。
 このような順調な経済成長と国際環境の好転を背景に、ドイモイ初期の軽工業の中心から、高付加
価値輸出入産業、エネルギー産業、ハイテク産業や農業の近代化産業が重点になってきています。
しかし、反面では財政の再建、法律の未設備、微税システムの不備、インフラ整備の遅れ、国営企業の
赤字、失業率の増加、都市と農村の格差拡大など多くの問題点をかかえています。
95年10月の国会での政府の経済政策方針で、国営企業の改革、財政の再建、インフレの抑制、
雇用の創出、密輸の防止を最重点にあげ、国家の強いリーダーシップを発揮して経済開発を
進めようとしています。
 しかし、山積みする課題を前にベトナム政府は難しい舵取を迫られているのも事実です。

コネの財政配分は不平等銀行を信用しない国民性、国営企業と徴収対策は遅延
44.0%
不動産
現金(ドン)
20.1%
10.0%
国有銀行預金
株式・債権
7.4%
4.4%
現金(ドル)
民間銀行預金
3.7%
0.5%
その他 9.9%
<ベトナム人の貯蓄形態>
 89年から本格化した財政改革は、歳入面では国営企業の自主性を
強化させるため歳入の8割を賄ってきた納付金を滅らし、売上高、
利益税、輸出入税、個人所得税などを課しました。
 上納金という不透明な徴取から法令による税の徴収で効率的な税収の
増大を図りました。
その結果、西側諸国や国際金融機関からの援助や石油収入、
土地収入が拡大し増収に貢献してきたが、依然として国営部門への
依存度が高い。
 税制は整備されてきたが、税務署の未設備や賄賂によって納税を
免れているなど微税システムの脆弱さや国民の納税意識の低さから、
期待する税収増にはつながっていないのが現状です。
ベトナム人の貯蓄形態の表をみると、戦乱とインフレによって銀行への
信頼性が低く、金の保有が44.0%、現金が13.7%、銀行預金は
わずか7.9%に過ぎません。
したがって、国内での資金調達できる金融市場を育成させなければ
なりません。
 歳出面では、多くの補肋金を90年に廃止し、人員、国防費を削除、91年には国家プロジェクトを除く
公共投資を全面的に凍結するなど徹底した引き締めを行いました。
 この結果、財政赤字のGDPに占める比率は90年の8.1%をピークに大幅に縮小しましたが、
将来的には、公共投資の拡大はベトナムの経済発展に欠かせない要素であるためいつまでも凍結とは
いきません。
海外借款や国情への依存以外に、新たな財源として外債発行を実現すべく環境整備を進める必要が
あります。
 国営企業に対する補助金廃止の代わりに、投資開発銀行からの低利融資が実施されていますがここから
生じる損失は国家財政で補填されており、その数字は歳出には計上されていません。
国営企業に対する財政負担は今も大きく、実際の貿易赤字は政府が公表する数字を上回るものと見られ、
早急に国営企業の企業連合化への整理と株式化に着手しなければならないでしょう。
さらに、中央と地方の財政配分の関係が大きな問題です。
税金は全て国税で、その66%がホーチミン市とハノイ市から得ており財務省が中央と地方へ配分して
います。
その配分額は「コネ」による交渉で決められています。発言力のある地域が多くの交付金を確保する
ことになり、都市部と農村・山岳部との間に10倍以上の差がつき貧富の差が生じています。
そのために、地方ではますます過疎化が進み、ホーチミン市等の都市部に人口が集中、逆に都市基盤
整備が追いつかない状態です。
このような政治的な交渉に基づく財源の配分は、地方との格差を広げる原因であり、明確な配分基準を
決めなければ国家の健全な財政運営を難しくしています。


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