仮説実験授業とは                                    
                                                               
 1963年に板倉聖宣によって提唱された科学教育の総称で、板倉の科学史研究にもとず
  く、予想論、誤謬論、認識論などが根底にある。また、「授業書」という授業のための書を
                  作り、教育研究にも科学の方法を採り入れられている。
                                                                                                                                                                                               
  基礎理論                                           
                   「すべて認識というものは、実践、実験によってのみ成立する」                          
 「科学的認識は法則的な認識であって、未知の事象に対して予言的な能力をもつよう  
                 な普遍的な認識をめざすものである」 
                                    
「科学的認識は、仮説実験授業を実験的に検証することによってのみ行われる」  
   
 「実験とは、自然認識を目標としてね自然と自分とを統御して、自然に問いかける意識 
         的主体的な活動である。」                                            
  
「科学上ではすでに確認されている理論といえども、その理論を初めて理解しようとす 
 る人間にとては、一つの仮説実験的な存在としての意味しかもたないものである。」   
 
                                                            
 仮説実験授業と授業書                                    
       仮説実験授業は「授業書」としょうする一種の教科書を中心に展開される。授業書は、教         
     師の技能の限界をこえた授業の成果を技術的に保証しようとする意図で作成されるもの        
    ある。                                                     
     
仮説実験授業の授業書は、「問題」を中心として構成され、このほかに「研究問題」    
        「練習問題」 「質問」「科学のことば」「読物」などの各構成要素からなっている。           
 
「問題」は、通常、問題文・予想・討論・実験の4段階からなっている。「問題」の答えは、 
       客観的な実験そのものによって決められなければならない。 「問題」の中の予想は、         
                   多くの場合、選択肢の形で与えられる。     
                                                                                                        
  
                                                             
    民主主義としての仮説実験授業                                    
          仮説実験授業を受けた子供たちが強烈に印象づけられることの一つに、「真理は多数決で         
        はきまらない」がある。 真理を決めるのは、多数決でも教師でもなく、自然現象そのもの、       
          つまり実験であるということに、この授業の圧倒的な強みがある。すべての人間の個性を          
   認め、それを尊重することによって集団が発展するという論理は知らぬ間に体得される。      
                                                                               
       
          
以上 板倉聖宣著『科学と方法』より  
                                                                           

                                                                           
           西村寿雄からみた仮説実験授業       
                                                         
  1.絶大な子どもの支持                                       
 
仮説実験授業の特長はこの授業を受けた子どもが絶対的に支持することにある。中学も
 しかり、短大生も同じ。これだけ、大規模に生徒たちに支持される授業は他にない。その元
は、指導要領
などの既成の枠にとらわれずに科学の立場から教育内容を総合的に組み立
 てている教材にある。                                         
 
 
                                                      
  2. 原理原則の発見                                    
仮説実験授業のすごさは、こどもたちを優れた科学の世界に引き込むことにある。一連の
問題を重ねることによって、その背後にある自然科学上の原理原則を自らの力で発見す
る。
                                                      
  3. 授業の科学化                                       
 
「授業書」が確立されているために、授業科学としての研究対象になりうる。教育を「科学」の
  対象としてとらえているのは仮説実験授業だけである。授業書があることによって、どこでも、
                 だれでも、同じ授業が可能となっている。 
                                                                                                
                                                           
  4. 自由と束縛の巧妙な組み合わせ                             
 「授業書」による一定の束縛(授業書)が課されることによって、子どもたちをより深い思考
  内容に導き、より自由で、より深い学習に導いていく。 そのことにより、子どもたちはおしつ
  けられる感じを持たないで、より深い学習満足感を味わう。このもとには、授業書の存在に
                 よる「自由」と「束縛」が巧妙に働いている。                                                                                               
                                                                
  5. 真理は実験により決まる                                
 仮説実験授業をしていると、自ずと「真理は実験により決まる」という科学の方法を体験する。
また、予想、討論の上真理を判定する行為が「実験」の名に値するものであるいう「実験
 観」を身につける。従って、「実験」には、直接の教師実験、科学者の実験結果、信頼できる
                データ、読み物なども含められる。  
                                                                                                  
                                                          
  6. 科学読み物の位置づけが明確                           
 仮説実験授業で子どもたちが歓迎しているものに授業書中にある「科学読み物」がある。子
 どもたちは、授業書の中の科学読み物(お話)を読むことによって、さらに広範囲に歴史的、
 原理的、実用的な知識を得ることを楽しむ。仮説実験授業は科学の授業における科学読み
                物の役割を明確にはたしている。    
                                                                                               
                                                         
  7. 討論の重みと少数意見の尊重                           
仮説実験授業の問題にはしばしば常識をくつがえす問題があり、討論が活発におこること
が多い。 また、験結果が少数派を支持するということが起こる。このことから子どもたち
   は、討論の楽しみを味わい、討論がより深い認識へ導くことを知る。また、少数派意見の大
               さを知らされる。 
                                                                                                           
  8. 柔軟な科学論                                          
仮説実験授業の科学論は社会の領域をはじめすべての分野に適用される。仮説実験授
業により学んだ「原子論的認識論」は集団や社会の現象にも適用される。このことを知る
      ことにより、複雑な社会の現象も、教育活動も科学の視点で見ることができる。            


 
                                                                  
   
                                                       
  9. 楽しい授業                                          
おしつけのない、高度な内容の授業は当然子どもたちに、知的好奇心を呼び起こさせ
 る。このことをもとにしながら、多種多様なもの作り、総合読本も含めて仮説実験授業は
                 
「楽しい授業」を作り出している。                                                                                                  
                                                               
  10. 平和な社会を築く礎                                  
 「常識を問い直す」「自由な討論をする」「真理は実験により決まる」ということから、子ど
  もたちは、自由にものが言える社会を大切にし、「自分の思いこみ」だけを先行させるの
  ではなく実験によって真理を決めることの大切さを知る。これだけでも平和な社会を築く
礎となる
                                             
                                                        
                                                      
 
   「仮説実験授業」 

                                                      
     
仮説実験授業とは
板倉聖宣著作集 「科学読物研究」