岩国市・子どもの読書活動推進事業・参考資料
 
科学のすばらしさと楽しさを
        子どもたちに知ってもらう本
 
                                    西 村 寿 雄
 
 子どもたちの読書離れが叫ばれて久しい。まして、科学の本となるとなおさらそ
の感がある。その原因の多くは、子どもたちがわくわくするような科学(読み物)へ
の手ほどきがほとんど行われていないことによると思われる。
 今のように、多様なメデイアの洪水の中では、子どもたちが文字をひもといて科
学の感激に浸るという経験にまでなかなか結びつかない。子どもたちが自ら本の
良さを知る機会も少なくなった今、やはり、授業やお話会などで、子どもたちと科学
の本を結びつけるきっかけを作ることが必要である。
 今回は、そういう意味も込めて、子どもたちに科学の楽しさとすばらしさを本を通
じて知ってもらい、「図書館に行くと楽しそうな科学の本もあるぞ」と感じてくれるこ
とをねらった。
 今回、小学校3,4年生と6年生に提示できる本をいくつか選んだが、ここで、科学
読み物を見る視点について少しふれておきたい。
 一般に科学読み物と呼ばれている本には、自然科学分野の読み物や絵本を指
している場合が多い。しかし、そもそも科学というのは、そのようなジャンルと無関
係にある。社会の本、芸術の本にも科学読み物と言った方がいいものがある。科
学の本とは、あくまで科学の原理原則が見えてくる本、人間の認識の過程のすば
らしさを説いたもの、そしてそれらに気づくように配慮された本が本来の子どもの科
学読み物である。それらの本をここでは〈科学の本〉とした。実際には、これらの本
はそんなに多くはない。
 自然科学分野の本では、著者の研究意欲が伝わってくる本、著者の研究過程の
成功と失敗のドラマが伝わってくる本、自然界を広く見渡せ自然界の楽しさが伝わっ
てくる本、最新の研究成果が興味深く紹介された本等がある。それらをここでは〈自
然の本〉と位置づけた。
 また、最近は単発モノの科学遊びという分野の実験指南書が多く出回っている。
これらには、本来の科学実験というより手品的内容の本が多いが、自然(自然現象)
への入り口に立つ本として役立つこともある。その他、理屈ぬきにして工作(もの作
り)、栽培、料理など、手作業を伴うものは楽しい。これらの本は多様に出版されてい
るので個々のニーズに応じて選べばよい。ここでは、これらの分野をひっくるめて〈科
学遊び・工作の本〉とした。
 
◆選書本解説【3,4年生用】
  ◎ 今回内容を提示する本  ・参考に紹介する本
 
(科学の本)
◎『おどるピンポンだま』(折井英治・雅子著 大日本図書)
  科学の楽しさのひとつは原理原則が自分の頭で見えてくることにある。 この本は、
いくつもの球形モデルを使うことによって、流体が物体におよ ぼす力に気づくように仕
組まれている。この本のシリーズは予想選択肢は ないものの、問いかけて、その結果
に読者が気づくように構成されている。 科学絵本の原型ともとれる。
・『空気と水のじっけん』(板倉聖宣著 いたずらはかせのかがくの本 国土社)
  このシリーズは問題・予想・実験を意識的に取り入れ原理の発見に導く と同時に挿
入されているお話も楽しい、もっとも科学の楽しさを与えてく れる本である。同様の内
容で科学の授業のプラン(仮説実験授業・授業書) が用意されているので、今回は本
の紹介のみにとどめた。
◎『虫ずかん・なかまさがし』(海野和男著 福音館書店)
 昆虫の分類について初歩的な見方が読みとれる。一般に図鑑類は学問的な 分類体
系をそのまま紹介していることが多いので、読者には分類の意図が わかりにくい。そ
の点、この本では多くの似た昆虫の写真を見て、読者が 分類を体験できる。 自然界の
原則に気づくことができる。   
・『よわいかみつよいかたち』(かこさとし 童心社)
 薄い紙も折り方によってはるかに強度を増すことを実験を交えながら体験 できるよう
にした本である。丁寧な問いかけ文で構成されている。実用的 な話もついている。
◎『ぼくがあるくと月もあるく』(板倉聖宣著 岩波書店)
低学年児から読めるがここで取り上げている現象の理屈はむつかしい。著者はあえ
て理屈は出さず、関連した現象を読者に問いかけて、自然の不思議な体験を意識さ
せるようにしている。これには、科学教育において理屈の押しつけをもっともきらう著
者の意図がある。
・『てとてとゆびと』(かこさとし 童心社)
 人間の持つすばらしい手の働きをいくつも紹介しながら、それらの働きが 長い長い人
類の進化の過程で生まれてきたことを語りついでいる。科学読 み物のひとつの役目は、
こうした人類の過去の歴史を知らせることにある。
 
(自然の本)
◎『あきのほし』(かこさとし著 偕成社)
 自然の本は、できるだけやさしくていねいな記述がいい。このシリーズは 秋の星空の
話や神話も読みやすくやさしい言葉で語りかけている。この本 の最後では、雄大な銀
河宇宙に夢をつなげている。
・『おちばひらひら』(久保秀一・七尾純 偕成社)
 自然の本でも、読者が主体的に問いを持ち続けていくことができると楽し く読める。
この本では、読者も一緒になって「あきってなに?」と問いな がら、次々と繰り広げら
れる展開が楽しめる。
・『だんごむし』(今森光彦文・写真 アリス館)
 写真本もここまでくると迫力と感動がある。ふだんあまり気にしない小さ な生き物の
意外な習性に驚かされる。
・『おちばの下をのぞいてみたら』(皆越ようせい文 ポプラ社)
 前書同様、地下に生きる小さな生き物たちの生命あふれる世界が感じとれ る。この
小さな生き物たちが土壌をつくり、地球リサイクルの大役を担っ ていることがわかると、
よけい虫たちがいとおしくなる。
◎『うんちをしたのはだ〜れ?』(石原誠 大日本図書)
 里山で見つけた一つのウンチをめぐって、どんな動物のだろう、どんな意 味があるの
だろうなどと想像をめぐらせるのが楽しい。自然探索の基本が 読みとれる。
・『ぼくのコレクション』(盛口満著 福音館書店)
 自然の落とし物のコレクションの集大成。こんなことも子どもの頃の楽し い自然体験であ
る。
・『雪の日記帳』(高田勝著 岩崎書店)
 冬の時期に向かうのであえて紹介した。雪原を歩くと目にするかずかずの 生き物のフ
ィールドサイン、ここからなぞ解きがはじまる。
 
(科学遊び、工作の本)
◎『木の実ともだち』(松岡達英・下田智美著 偕成社)
 木の実の図鑑から、木の実を使った料理やアクセサリー作りが紹介されて いる。イラ
ストも楽しい。『どんぐりノート』など類書もある。
・『あきかんでつくろう』(よしだきみまろ 福音館書店)
 あきかんを使った工作の紹介である。かんぶえやストローロケットなど楽 しそうだ。こ
うしたもの作りの本ではアイディアが参考になる。
・『かみであそぼう』(小林実 福音館書店)
 1970年代発行で今は絶版であるが、たいていの図書館には保管されてい る。このシ
リーズには簡単なもの作りが多く紹介されている。大人が見る とよいヒントになる。
・『風でうごくおもちゃ』(遠藤一夫著 岩波書店)
 1980年代に発行された意欲的な考える本のシリーズである。工作自体は みんなとい
っしょに作ると楽しい。作って楽しむ本の原型でもある。
 
 
◆選書本解説【6年生用】
  ◎ 今回内容を提示する本  ・参考に紹介する本
 
(科学の本)
 科学的なものの見方や考え方を育ててくれる本はそれほど出版されていないが、高
学年であれば読める本としていくつか取り上げた。
 
◎『科学的とはどういうことか』(板倉聖宣著 仮説社)
 この本は、本の体裁から言うと中高校生以上が対象でしょう。しかし、文 章や取り上
げられている実験そのものは簡単なものが多く、大人の手助け さえあれば小学校高
学年でも楽しめる。題名のとおり、「科学的とはどう いうことなのか」が読みとれる。もう
すぐ中学生になる子どもたちである し、いつか手にしてくれればいいと思って紹介した。
  科学が体験的にわかる本として最近同著者の『粒と粉と分子』(仮説社)
 などシリーズとして発刊中だが、実験そのものは少し高度なものが多い。
・『地球ってほんとにまあるいの?』(板倉聖宣著 仮説社)
 「地球が丸い」などもう常識化している話だが、そのことがいつごろから 大衆に認め
られるようになったか、またどのようなことがきっかけで「地 球は丸い」と人々は認識す
るようになったか、興味ある話題である。
◎『天動説の絵本』(安野光雅著 福音館書店)
 前書と同様なことだが、こちらはまだまだ地動説が信じられなかった人々 のものの
見方考え方から次第に地動説に変わっていく長い長い人類の苦難 の道をドラマティッ
クに描いている。「迷信の時代から科学の時代への人 々との驚きと悲しみ」を感じとっ
てほしいと著者は語る。
・『砂鉄とじしゃくのなぞ』(板倉聖宣著 福音館書店・国土社・仮説社)
 子どもの頃「砂鉄は鉄のやすりくず」と信じていた著者が、砂鉄の究明を きっかけに、
地球磁石と砂鉄の意外なかかわりに話を展開していく。この 本で著者は、とんでもない
考え違いや思い違いも、独創的な考え方を育て る上で大切な要素だと指摘する。
・『数と図形の発明発見物語』(板倉聖宣他編 国土社)
 科学の発明発見物語シリーズで多くの分野の本がある。一つの真理がどの ような経
過で発明発見されてきたか、失敗と成功のドラマが読み物として まとめられている。学
校などの授業のあとでよく利用されている。
◎『日本の産業の姿と未来』(板倉聖宣監修 小峰書店)
 社会の姿も予想を持って問いかけ、数量で確かめるという〈実験〉の手法 で社会の
姿を見ている。この観点からするとこの本も科学の本である。ふ つうのグラフのほかに
変化量を見やすくした量率グラフも多用している。 社会の姿も数量的に把握すると未来
が見えてくる。
 
(自然の本)
 自然の本に類する本は各分野多様に出版されている。それぞれの個人の興味と関心
にもとづいて見やすく読みやすい本から手にすればよいだろう。今回は、時期や地域を
考えていくつか取り上げてみた。
 
◎『葉の裏で冬をいきぬくチョウ』(高柳幸恵 偕成社)
 あるとき自然観察会に参加した著者は、冬をじっとチョウ(成虫)のまま生 きぬいているウ
ラギンシジミに感激する。それ以来、自宅の近くのウラギ ンシジミの観察にはまりこむ。著
者はふつうのおかあさんである。だれも が、興味さえあれば身近な研究にうちこめることを
知らせてくれる。 
・『カブトガニからのメッセージ』(惣路紀通著 文研出版)
 著者は、笠岡市にあるカブトガニ博物館でカブトガニ研究に今も携わって いる人である。
子どもの時のちょっとした感動がきっかけで、大人になっ てその研究にうちこむ人も多い。
5億年も生きてきたカブトガニの謎にく わしくせまる。ヒサクニヒコさんのイラストもよい。
・『恐竜はどんな動物だったか』(ヒサクニヒコ著 サンリオ出版)
 恐竜自体が珍奇な化石動物と見られしばしば発刊ブームを引き起こす。こ の本は長年
恐竜研究に打ち込んでいる著者が、「恐竜を生きた動物として 考えたい」とまとめた力作。
簡潔ではあるが化石にもとづいて機能を考え た生きた恐竜の姿にせまっている。
・『ジャガイモの花と実』(板倉聖宣著 福音館書店)
 「ジャガイモの花と実をひとつの手がかりとして、自然のしくみのおもし ろさと、それを上手
に利用してきた人間の知恵―科学のすばらしさとを描 きだそうとしたものです。」と著者の
あとがきにある。科学読み物の神髄 にふれられる。
・『さぐろう秋吉台の3億年』(庫本正 大日本図書)
 石灰岩台地の秋吉台と秋芳洞について、四季折々の自然の美しさとその成 因、秋吉台
を利用してきた動物や人間の話など、わかりよくまとめられて いる。秋吉台の地層の逆転
について、最近の研究成果である付加帯の考え 方も少し紹介されている。
・『ライト兄弟』(富塚清著 講談社)
 こうした伝記物はほとんどは科学とはいえない人物伝が中心になってい  る。しかし、この
本の著者は航空機製作にもかかわった技術者で、物語中 の一つ一つの考証がきちんと行
われている。ライト兄弟の独創的な発明発 見に焦点をあてて楽しい読み物となっている。
・『ぼくのコレクション』(盛口満著 福音館書店)
 自然物のコレクションもこんなに多様にできるのかと再発見させてくれ  る。冬になるとどん
なコレクションができるだろうか。さしずめ、鳥の羽 のコレクションもよさそうだ。
・『人間と環境』(板倉聖宣・吉村七郎他著 小峰書店)
 環境に関する総合的なシリーズ本である。環境問題も人間の科学技術向上 の産物ととらえ、
「今の便利な生活環境はできるだけ維持発展させながら、 自然環境をまもっていく」ことをめ
ざして、今後の環境問題を考えていこ うという姿勢をつらぬいている。
 
(科学遊び、工作の本)
 この分野の本も多様に出回っている。下記いくつか選んだが、クラブ活動 や科学遊び等に
参考になりそうな本を選んだ。
 
◎『手づくりおもちゃ大図鑑』(菅原道彦著 大月書店)
 特に子ども向きというのでないが高学年なら読める。既製品の洪水の中で 育つ子どもたち
に、少しでも手作りの楽しみを味わわせたいと思う。そう いう時の参考になる本である。ア
イディアも豊富にある。
・『科学あそび大図鑑』(津田妍子著 大月書店)
 この本も、子ども向きというのではない。クラブなどで、子どもたちに科 学遊びを体験させ
たいときのアイディアが多く含まれている。津田さんご 自身が長年の科学クラブで培われた
ものも多い。
・『からくり玩具をつくろう』(鎌田道隆著 河出書房新社)
 この本も、中高校生以上の技術書、読み物である。クラブなどで教員指導 のもとでおこなう
工作には参考になるのではないか。この本をここで取り 上げた理由は、こうした玩具の歴史
的な研究の成果も書いてあるからであ る。実際にものを作らなくても、伝統的な玩具を作り
楽しく遊んだ江戸時 代の雰囲気が楽しめる。
 
 
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