2010.04.15.〜 04.22.
中村哲之助議員の訪問記
※各写真をクリックしていただくと拡大版をご覧頂けます。
 
議会制度と福祉を学ぶ(4月20日・午前) ・・・  ・
4月20日は、私達のPOL国での視察調査の事実上最後の日であるが、先の飛行機事故と火山の噴火による影響で、大幅な日程・内容の変更を余儀なくされている。特に下院議員との意見交換が出来なくなってしまったこと、WAW市では担当責任者の部長が事故によって死亡されたために説明者が変更になったこと、さらに国葬に伴って市庁舎内での説明・懇談が不可能となり、会場が私達の滞在しているホテル内に移った。
 10:45ホテルに戻った私達は、WAW市の福祉分野の専門家達からの説明を受けるわけであるが、ホテルでは既にプロジェクターなどを設置し、準備を終えてくれていた。私達のお礼の挨拶の後、WAW市の担当者が早速、自己紹介を行った。
・応接者 WAW市社会政策部 アンナ・ヤンユーフスカ・ヴフター氏(女性)
(子ども・家族問題担当専門家)
  〃  アンナ・レペレヴィッチ・イヴァニュク氏(女性)
(社会援助問題担当専門家)
・テーマ WAW市の社会福祉政策の課題とEU加盟による影響
 ヴフター氏はWAW市の人口が170万人、面積が517平方qであるが、勤労者や学生らが集中する昼間人口は250万人を超えるなど、WAW市の概要を数分述べた後、これまでは評議会(日本の議会)で行政担当責任者の市長を決めていたが、2002年からは市長が直接選挙によって選ばれ、現在の市長は女性のハンナ・グロケルツ・ヴァルツ氏で、副市長は4人置かれていると説明。
 いまWAW市では、市民からの多様な要求や厳しい状況に置かれている人達への様々な施策を講じている。特に力点を置いているのは、
  1. アルコール中毒・麻薬患者が多く、これへの対策
  2. 身体障害者や高齢者への施策
  3. 家庭内暴力対策とその予防
  4. 要保育児童対策(保育所・児童養護施設など)
  5. 増大する失業者への対策
などであり、これらへの具体的施策についてそれぞれ説明された。とりわけ、事後の対策よりも予防に重点を置いた行政を進めている。

 紙面の都合で全ての課題を記載できないが、例えば、

【1】一人で子育てしながら懸命に働いている女性や妊娠中の女性にとって、今日の社会経済環境は厳しく、失業率が非常に高い。仕事がなくアパートを出て行かなければならない人、AV被害にいつも悩まされている人達に対して、市は暫くの間、安心して生活が出来るようにと、シェルターのような施設を4ヶ所運営している。さらに親からの虐待や、養育放棄されている子ども達への施設として孤児院を15ケ所設置し、720人を収容している。

【2】失業率は全国平均で1.2%程度であるが、WAW市では60,000人以上の2.8%にも達している。さらにWAW圏全域の失業率は10.5%にもなり、この市民への社会援助費(日本での生活保護に似通っている)が膨大で、財政的に大変「シンドイ」状況になってきている。そのため、失業者のための労働事務所を22ヶ所開設し、遠く離れている家族への電話や参考資料・雑誌の閲覧などを無料で提供し、社会復帰の促進を促している。

【3】保育園(40ヶ所)では3,560人を保育しているが、子ども達が「いい遊び」を通じて成長できるよう努めている

……などである。

 さらに、WAW市にはEUからの援助も相当あるが、この財源は失業者・貧困者・無住居者・障害者への施策、能力開発に充てているという。これによって直面する社会福祉施策の充実が可能となっている。
 私達が最も注目したのは、様々な行政課題を民間の人達(財団・NPO・教会など)に「知恵」を出してもらい、官民共同で事業を進めていることである。例えば、「高齢者がもっと気軽に外出できるような街にしたい。どういう方法があるか」と市が公募する → 各団体からの提案が示される。その一つとして、現状では、路面電車をはじめとする交通手段がハード・ソフト両面で十分ではない → 公共交通機関である路面電車の乗降をもっと楽にするため、低床形に変更する必要がある → そのため、電車自体の新型化もしくは大改造と、停留所付近の安全対策を実施する などのように、具体的な対応策が提案される。

 これらの提案に対し、専門家・市民・WAW市などで構成する検討委員会でこれを分析し、採用案を決定する。この該当団体が信用のある団体の場合は契約を3年間とし、もしそうでない団体の案が採用された場合は1年契約とし、事業に必要な予算を付ける。そして、それぞれ3年先、1年先にまた新しい公募を行い、市民の望む施策を具体的に展開している。
 これまでの成果としては、アル中患者の社会復帰施策、身体障害者(高齢者含む)向けの低床バスの導入などがあるという。これによって、低床バスは既に130台導入され、年間の利用者は一気に増えて280万人にもなったようである。
 これらの説明に対して議員団から、
  1. 社会政策部の機構・組織はどうなっているのか
  2. WAW市とWAW圏の失業率はなぜこんなに高いのか
  3. AVや児童虐待と孤児院の運営、また子ども達は養子縁組などのケースが考えられるのか
  4. 公募する福祉政策のコンクールに関わることが出来る団体・組織はどんなものか
などの質問が出され、意見交換を行った。
 最後に全員で記念撮影を行いWAW市からのレクチャーを終了した。もう12時半になっている。市を挙げて国葬に取組まれ、十分な時間のない中をわざわざホテルにまでお越しいただいたWAW市とお二人に心から感謝申し上げる。